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Member6 ドリームズカムトゥルー
 みんな自分のことをどれだけ知っているのだろうか。わたしは自分のことをどれだけ知っているのだろうか。
 みんなどうやって自分の人生を決めているのだろうか。わたしはどうやって自分の人生を決めたらいいのだろうか。
 本当に自分のことを知りたいと思う。

 うちのお母さんはわたしにかなり口うるさい。口うるさいのはお母さんだけではない。2歳下の大学生の妹も相当すごい。友だちにそう言うと、うちもよ、と言う。でもレベルが違うと思う。わたしは本当にうんざりしている。お母さんも妹もわたしのことを相当の変わり者と思っている。そしてわたしを“普通の女の子”にしたいのだと言う。

 お父さんは今北海道に単身赴任している。でもお父さんは穏やかな人だから、たまに帰ってきても黙って好きな釣竿を磨いたりしているだけだ。お母さんのパワーが強すぎるのか・・・
 一度だけ、お母さんがお父さんにわたしのことでグチを言ったら、
「みどりはみどりなんだから、今のままでいいじゃないか」
と言ってくれたことがあった。
 わたしはこころの中で、もっと言って!と叫んだけれど、お父さんはそれ以上言わなかった。お母さんの目じりが上がったからだと思う。

 わたしはいつも思う。“普通の女の子”ってなに?今風のファッションをいつもチェックして、エステに行って、新しい時代に乗り遅れないよう情報に敏感になって、堂々と胸を張って・・・?
 でも、少なくともわたしは猫背ではないから、姿勢に関しては胸を張って生きてるけれど・・・
 ファッションやエステに興味がないのはそんなにいけないこと?
毎日あれこれと言われる。それがなかったらどんなに平和でゆったりと暮らせるだろう。

 わたしは短大を卒業してから運送屋で働いている。本当は旅行会社でツアーの添乗員になりたかったのだけれど、お母さんに、そんなに暗い雰囲気では問題外ね、と言われてしまって、旅行会社を諦めたのだ。確かにわたしは華やかではないけれど、そこまで暗くもないと思っているのに・・・
 旅行会社を諦めたら、夢を簡単に諦めるのね、と嫌味を言われる始末。どこまでも追いかけてくる感じなのだ。

 それからお母さんや妹によく言われるのは、わたしが何でも中途半端、ということ。確かに子どもの頃から習い事はたくさんしたけれど、長続きしたものはなかった。幼稚園から小学校にかけて、ピアノ、書道、空手、水泳、ダンス、手品・・・どれもやってみたくて始めるのだけれど、やってみるとあまり面白くなくて、辞めていた。
 たしかに、これを習いたいというとお母さんはいつも、やってみれば、と言ってやらせていてくれた。わたしを応援してくれていたのだ、その頃までは。
 でも、中学校に入ってからは何もせず、帰宅部。そのころからわたしに対する風当たり、というかクチ当たりが強くなっていった、ような気がする。

 お母さんと妹が話しているのを見ていると、そもそも持っているパワーが違う、と感じてしまう。いくらでも喋っているし、賑やかだ。
 それでわたしを放っておいてくれるなら、べつにわたしも構わないのに、話のついでにわたしにあれこれ口を出してくるから困ってしまう。
 部屋が汚い、服のセンスが古い、表情が暗い、覇気がない・・・
 みんなそれぞれちゃんとしているところとそうでないところがあると思う。いちいち言われると元気だってなくなるというもの。最近は、やる気がない、もっとやる気を、と言われる。なにをどうやれというのだろうか。
 わたしはそれぞれがしたいことをすればいいのだから、人のことをとやかく言う気にはならないけれど・・・

 あまりに言われるのでうちから出る方がいいのだろうか、と考えた。 アパートを借りてひとり暮らしをする、と言ったら、あなたのような人はひとり暮らしに絶対向いていない、と言われた。あなたのような、というのはどういう意味だろう。気になったけれど、どうせいいことは言われないのだから聞かなかった。

 わたしは年齢とともにさらに自信がなくなって、会社と自宅を行き来するだけの静かな生活になってしまった。すると友だちも段々少なくなって、今は高校のとき同じクラスだった女の子ひとりだけ。彼女とだけはときどき会ってご飯を食べたりする。
 彼女は高校時代ぽっちゃりしていたのだけれど、最近奮起して体重を落とし、見違えるようになった。プチ整形もして、本当に別の人のようになった。
 わたしはどんどんきれいになっていく友だちを見て、少し複雑な気分になってしまった。

 わたしの人生ってなんだろう。こうも人にあれこれ言われ続けて暗い生活を続けるだけ?わたしに幸せはない?明るい未来もない?
 友だちは、今度カルチャースクールに行こうと思ってるの、と言った。ネールアーティストの養成講座に行きたいそうだ。
 「やっぱりこの世に生まれてきたからには、自分をどんどん表現して楽しく生きたい」
と彼女は言った。容姿がきれいになったら、世間に出て行きたい!と強く思うようになったとだと言う。
 わたしも誘われたけれどネールアートには興味がなかったので断った。
 でも、自分を表現する、という言葉はすごく残った。

 そう。わたしは積極的に自分を表現しようと思ったことは一度もなかった。わたしたちはひとりひとり違うのだから自分を表現しないと、自分らしさがたしかに表に出てこないのかもしれない。生きるということは、イコール表現かもしれない、とそのとき初めて気がついた。

 友だちから渡されたカルチャースクールのパンフレットを見ているうちに、昔いろいろやっていたころの記憶がよみがえってきた。みんな途中で辞めてしまったけれど、何か新しいことに挑戦してきた自分がいたんだなあ、と思ったとき、初めて自分を誉められる気がした。
 習い事は、どうせ中途半端に投げ出してしまうかも、というトラウマみたいになっていたけれど、今のわたしはこれまでのわたしとは違うはず。最初から諦める必要なんてないのだ。

 カルチャースクールには本当に驚くほどたくさんの講座がある。
 何か始めてみようと思った。今度は自分のお給料で行くのだから、誰に遠慮もいらない。
 講座の中でいちばん惹かれたのは『お笑い講座』だった。これまでの人生でわたしのことを面白いと言った人はただのひとりもいない。わたしとお笑いは正反対と言ってもいいだろう。
 だからこれにしよう、と思った。今のわたしに必要なのはきっと、ものすごくパンチのあるもの。たとえば、ブランコに立ち乗りして、大揺れしてみたいのかもしれない。こっちの極からあっちの極へ。そこで思い切り落ちるか、あるいは思いがけず空に届くか、のどちらかだ。

 家族にはただお稽古事、とだけ言って、わたしは『お笑い講座』に入った。一体何をするの?と何度も聞かれたけれど、わたしの決心が鈍るといけないので黙っていた。友だちにも言わなかった。

 お笑い講座の初日、実は部屋に入るとき一瞬足が止まったのだけれど、「ここですよね、お笑い講座」と話しかけてきた人がいて、わたしもその人と一緒にすっと入ることができた。
作品名:リ・メンバー 作家名:草木緑