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 自分の年齢を忘れる。自分の体力も忘れる。容姿も忘れる。これまでの人間関係も忘れる。
 わたしにはなんの制約もない、ということろからスタートして、ほんの微かでも浮かんでくるものは全部書こう、と決めてからノートに向かった。

 そうしたら今度はいくらでも出てくるのでびっくりした。ほっとして、久しぶりに大笑いした。
 それから数日たってわたしはもう一度ノートに向かった。
 こころを落ち着けてわたしは考えた。
 わたしの本当に望んでいること。
 わたしの最高と夢と理想。
 
 “豊かで、健康で、人の役に立って、喜びと感謝を感じながら人とたくさん交流して、ああ楽しいなあ、嬉しいなあって毎日口にしながら笑顔で過ごす。”

 これっていいでしょ?
 それでは、今この瞬間からこれにふさわしいわたしでいよう。

 そのためにはまず、庭を思う存分楽しむ。よく体を動かして植物とも仲良くする。
 裏庭の畑も大事にして、自分が食べる野菜を丁寧に育てる。
 地域の活動にひとつ参加する。そこで人と会ったら必ず笑顔で声をかける。会えたことをこころから楽しんで話をする。
 習い事もひとつ。そうね、フラダンスを習う。

 主人とハワイに行ったことがある。主人の知り合いの家に行ったらそのうちの女の人全員、親子3代がフラダンスを踊ってくれたのだ。わたしも手を取られて一緒に踊ったことがすごく楽しくて、忘れられない思い出としてこころに残っている。
 ずっと先のことだけれど、いつか主人の所に行ってフラダンスを見せてあげたらきっと喜ぶと思う。

 この四つが決まってから、わたしは生まれ変わった新しい人間として生きることにした。なりきるしかないでしょ?すると周りの風景も少し違って見えるようになった。気のせいかキラキラして見えるようになった。

 善は急げ。まず庭の準備。
 悟飯に計画を話したら花壇の設計をしてくれるという。あまりお金はかけられないし、力仕事もだめだけれど・・・と言うと、大丈夫、ぼくに任せてよ、と言って、本当にすぐ描き始めてくれた。

 悟飯はわたしが頼んだどおり、わたしの大好きな花を入れて、英国風庭園の香りがするようなデザイン画を10枚くらい描いてくれた。どれもすごくすてきで迷ってしまったけれど、イエローを基調にしたデザインがあって、わたしはこれを選んだ。悟飯は、ぼくもこれがいちばん好きなんだ!と言った。

 土作りからいろいろすることはたくさんある。ひとつひとつじっくり楽しんでやっていきたい。ぼくも手伝うよ、と悟飯は言ってくれた。やることが増えたら、からだが自然に動く。

 小さい庭もなんだかいい感じに息づいて変わっていく。レンガを積むときや石を運ぶときは悟飯が手を貸してくれる。
 あるとき、ピーターが訪ねてきた。
 「庭はうまくいってる?」
と言った。悟飯にいろいろアドバイスしてくれているみたい。
 ピーターは、
 「大家さん、スーパーラッキーだね。ぼくたちプロがついてるからねー」
と言った。本当にわたしはスーパーついている!

 たまに悟飯は庭に咲いている花をとちょこちょこっとスケッチしている。そのうしろ姿を見ていることもわたしの喜びだ。
 わたしが庭仕事をしていると家の前を通る人がよく声を掛けてくるようになった。そこで庭には木のテーブルと椅子を置いた。気が向けばそこで近所の人とハーブティーや日本茶を一緒に飲んだりすることもある。
 今まで挨拶だけ交わしていた人たちと友だちになった。人と話すのが本当に楽しい。それに、わたしが人と一緒に庭にいると、庭もいい感じになるみたい。

 それからしばらくしてわたしはカルチャーセンターに行って、フラダンスの教室に申し込んだ。
 先生は40代の女性で、とてもふくよかでよく笑う。生徒はいろいろな世代が15人くらいいる。みんなすごく楽しそうでわたしは安心して入っていける気がした。

 早速ギャザーの入ったスカートを買った。ブルーの地に黄色のハイビスカスをあしらったとてもハワイらしい柄。ハワイ語ではハイビスカスのことをアロアロというそうだ。着てみるとそれだけで気持ちがとても明るくなる。
 教室の活動として発表会だけではなく、地元のイベントでフラダンスを披露することもよくあるそうだ。
 運動神経はからきしダメだってけれど、こころから楽しめばそれでいいじゃない?久しぶりにとてもワクワクしている。ワクワクするってこんなに楽しかったかしら。

 わたしがガーデニングとフラダンスを始めてしばらくたった頃、びっくりすることが起こった。
 前に、うちにホームステイしていたアメリカ人の女の子スージーから電話があった。10年ぶりくらいだと思う。
 スージーは最近結婚して、今はハワイに住んでいるという。イルカを見るツアーをご夫婦でしているという。日本のお母さんのことが懐かしくて電話した、と言ってくれた。
 わたしがフラダンスを習っていると言ったら、とても喜んでくれて、ぜひ遊びに来て、お母さんならいつでも大歓迎!と言った。

 電話があったその日はちょうど歯医者さんに行く日だった。長い間お世話になっている先生で、もちろん腕も確かだけれど、すごく話が面白い。先生にアメリカからの電話の話をしたら、イルカ?それは聞き捨てならない、と身を乗り出していた。イルカのツアーを紹介しているスージーたちのホームページのアドレスをあとで教えることになった。

 歯医者さんにアドレスを教えてからしばらくたった日のことだった。 今度は歯医者さんから電話がかかってきた。
 「ツアーに行こうと思っているんですよ。教えてくださったスージーさんのところへ。もしよかったらハワイに一緒に行きませんか?家内も行きますし・・・家内はもっぱらショッピングかもしれませんけれどね。平井さんがもし行ってくださればすごく楽しい、って言ってます」
 「由美子さんが?ほんとっ?」

 とてもびっくりする話だった。わたしまで誘ってもらえるなんて思いも寄らなかった。
 歯医者さんご夫婦とどこかに出かけたことはこれまで一度もないけれど、でも、わたしは一緒に行くことにした。日程も4泊6日だし。スージーに久しぶりに会ってこよう。フラダンスも見てこよう。イルカもできたら見てこよう。考えただけで楽しくなってきた。

 そして、いつの間にかわたしの体調はすごくよくなっていた。毎日のひとつひとつがとても楽しいと感じられるようになった。あちこちに力がみなぎっている感じがする。
 悟飯にそういったら、大家さん、なんだかいつもピカピカしていますよ、なんて言ってくれた。
 からだの底の方から湧いてくる元気は何よりありがたいと思う。

 わたしはいろいろな人に助けられていると思う。主人、娘、そしてノボルさん、悟飯、ピーター、歯医者さん、それからフラダンスの仲間。 みんな、ありがとう、とわたしは声に出して言った。
作品名:リ・メンバー 作家名:草木緑