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あなたが好き

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 帰宅。そして……。
 
 私は部屋に帰った
 いつもと変わらない部屋
 肩にかけたままのバッグ
 座り込むラグの上
 溜め息をひとつ
 姿の映る窓

「あー緊張したぁ。うーん。詩なんて浮かばないよぉ」
足を投げ出し、ラグの上に仰向けに倒れた。
「何なの?あれは……。あれ?名前も知らない。歳は? ……?」
頭に浮かぶことを次々に言葉に出してみた。可笑しな独り言だ。
「あの人はどうして聞かないの?私の事……。ふつう聞くでしょ!聞きたいでしょ!……」
その独り言に不満や愚痴が混ざってきた。
感情が掻きまわされるように、気持ちが変わっていく。
「だから、私は、どうなの?どうしたいの?どうなりたいの? ……」
「もう!いい!寝る!」
私は、日頃しない腹筋に力を込め、起き上がると、ころっとあっさりした気持ちに戻った。
「ん。お風呂、はいろ」
だらりと起きあがると、着替えを持って浴室へと行った。
 化粧を流し、髪を洗い、身体にシャボンを纏いながらふと頭に浮かんだのは、先ほどのことばかり。
(『明日も会えますか』か…うん、会いたい…ん?これって恋?)
恋などと言葉を浮かべたばかりに 私の意識は、もうそちらの方向ばかりに流れっぱなし。
気分まで浮かれ始めて、お祭り騒ぎにならないかと。いや、なってもいいじゃないと囁く私がいた。
 風呂上り、なかなかほてりが取れないほど、長湯にのぼせてしまっていた。
 読みかけの雑誌を開き、時間を過ごそうかと思ったのだが疲れた身体は睡魔にぐらついた。
布団に潜ったあとは、もう夢見ることもなく眠ってしまったようだ。
そして、目を覚ました時は朝だった。
 
 出勤二時間前。
 目覚まし時計をかけずに眠ってしまった私は、目覚めは飛び起きた。
手を伸ばし、時計のデジタル表示に明かりを灯し、見た。
(良かった、寝坊してない。まだ早いなー。二度寝できそうだけど、今度は起きられないかも……)
(ぐっすり寝たのかなー、頭すっきりしてる。このまま起きようかな……早起きは三文の徳っていうし)
(三文か…三万円ぐらい徳ならいいけどな……)
ゆっくりした朝ほど、仕度が遅くなるのか、出かける間際にばたばたと大慌てして部屋を飛び出した。

 予想をしていた残業も、ほとんどなく退社することができた。

 空を見上げた。
『恋をしたらね、詩が浮かぶの』先日寿退社した友人が言っていた台詞を思い出していた。
「浮かばないから、これは恋じゃないのかなぁ〜」
ふと小さな声で呟いた。
作品名:あなたが好き 作家名:甜茶