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あなたが好き

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 入店四十分後。
 料理のコースもほぼ終わった。
男性は、ペーパーナフキンを膝から外した。
「ここのお勘定は、割り勘でお願いします」
私の申し出に男性の顔がくもったように見えた。
「ありがたいけど かっこつけさせてもらっていいですか?財布は軽いけど、その予定でいますから」
「でも」
「僕のこと、少しはわかりましたか?」
私は、確かに、一人の人を理解しようと言葉を重ねていたように思った。
 こんなふうに話すことも久し振りのこと。今までなかったことだったかもしれなかった。
「なんと答えていいか、わかりません」
「そうでしょうね。良かった。適当に『はい』なんて答えられなくて。君って素直な人だね」
「そうですか?」
「そうだよ。それでは明日も会えますか?」
「明日ですか?もしかすると会社を出るのが遅くなるかもしれません」
「わかりました。書店で待っていていいですか?」
私は、頷いていた。
「あ、僕は、たぶん鈍感で気付かないことがあるかもしれませんから、はっきり言ってくれていいですから」
「え?」
「会いたくないなら会いたくないとか。無理だとか」
「はい。わかりました」
「じゃあ、そろそろ出ましょうか?帰りは、どこまでお送りすればいいですか?駅?家?」
「大丈夫、ご心配なく」
「とりあえず、出ましょう」
「はい」
 立ち上がると、疲れて浮腫んだ足はパンプスがきつく感じ、靴ずれの傷を押さえつけ痛い。
 精算をする男性の斜め後ろで待つ私は、何度も靴と足の具合を確かめる。
(断っちゃったしなー)
「お待たせ。じゃあ」
「あ、ごちそうさまでした。ありがとうございます」
男性は、店の扉を支え、私を送り出してくれた。
 男性は、車のロックを開けると、助手席側のドアを開けた。
「どうぞ。駅まで距離がありますから、その足痛そうだから」
私は、その気遣いをありがたく受け取った。
 駅前には、まだ人通りがあった。
「それじゃあ明日。本屋で待ってます。本当に此処でいいですか?足…」
「はい。じゃあ……」
(じゃあ?じゃあまたって私言いたかったのかな?何。どうしたのよ?ま、いっか)
車のドアを閉め、走り去る車の後ろを見送った。

 曲がり角手前五メートル?
 ブレーキランプが長く点灯した。そのあと単発で数回点滅したのを見た。
(何?ドラマでよく見るあれ?『お・や・す・み』?え?でも字数が違うよね……何?)
そんなどうでも良いことを考えてにやついた自分が可笑しかった。
作品名:あなたが好き 作家名:甜茶