小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

あなたが好き

INDEX|2ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 
   
 出会い五分前。
 ゆっくりと店内を歩いているわけではなかったが、何度も背表紙のタイトルに目が留まり、棚から抜き出してはカバーの解説を読む。
だが、目的の本を読む前の道草はしたくない気持ちが、溜め息混じりで本棚に返していった。
ただ、本棚伝いに一列歩き終えようとしていた。

 出会い三分前。
 ふと、棚の前面に積まれた本の上に財布か名刺入れのようなものが置かれてあった。
おそらく、落し物。置き忘れのものだろう。
見て見ぬ振りをして通り過ぎよう。そんな気持ちとは裏腹に私の手は正義感かお節介をしでかした。
その置き忘れのものをしっかりと掴み上げていた。
 私は、その場できょろきょろと見るのも恥ずかしいので左右を見ただけで精算カウンタへと向かった。
「あの、これ……」
そう言いかけた時だった。
 隣のカウンタに息を上げて、駆け込んできた人が居た。

 出会い。
 「あ、あの。はぁはぁ……あの忘れ物届いてませんか?あ、そのぉ、財布落ちていませんでしたか?」
店員は、気の毒そうな視線をその人に向けながら、口元だけで微笑む。
「お財布ですか?まだ……あ、ちょっと聞いてみますね」
隣の店員、そう私の前に立っている女性店員に話しかけた。
「知ってる?」
「いえ、聞いていないわ」
 私は、手に握りしめているものを隣のその男性に見せた。
「こちらですか?」
男性は、視線を私に いや 私の手にあるそれに目を向けた。
「あ、それ!それです。良かったぁ」
男性の手が伸びてこようとしているのを感じながら、私はカウンタの上にそれを突き出し置いた。
「待ってください。本当に貴方の持ち物ですか?」
「え?そうですよ」
「私は、一応ここに届けますから、店員さんに確認していただいてくださいね。はい、お願いします」
そう言いきり、私はその場を離れた。
 男性とふたりの店員の視線が、私の背中をちくちくさせた。
(ちょっと大袈裟だったかな……)

 再会。
 また違う単行本の棚の並びに立ち寄った私は、背表紙のタイトルを眺めたり、カバーの解説を読んだりしていた。
「あ、居た居た。先ほどはどうも」
あの男性が、さきほどの慌て振りなど微塵も感じさせない笑顔で近づいてきた。
 私は、特別な関わりなど持つつもりはなかった。
それどころか、声をかけられたことにすら、嫌悪を感じていたかもしれない。
(なんだか、馴れ馴れしい感じね)
 内面では、そんな台詞を吐きながらも、外面では、僅かに笑みを作った口元と軽い会釈とで答えていた。
「良かったですね」
「ええ、ちょっと大事なものが入っていたので、助かりました」
「そうですか」
「ええ、金や財布だけなら、諦めもしたかもしれませんけどね。いややっぱり金も財布も惜しいかな。あははは」
(何も聞いてないのに、なに勝手に話しかけてくるの。面倒!早く離れて行って欲しいわ)
私も愛想笑いをしながら少しずつ距離を取った。
「じゃあ、私はこれで」
「あ、時間はありませんか?」
(え?なによ……ここでナンパ?)
「ええ、急いでますので」
「そうですか。じゃあ明日。此処で。待ってます」
そう言い残し、その男性は立ち去って行った。
作品名:あなたが好き 作家名:甜茶