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あなたが好き

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「あの、私、貴方のことが好きみたい」
そんな告白をしたのは、貴方と出会って三日目のことだった。


 出会い二時間前。 
 「おい、この資料まだ仕上がってないのか?」
直属の上司である課長の声が、頭の上を飛ぶ。
私に言われているわけではないものの、その声は、何度となく私の手を止めさせた。
「先輩、ここはこうでしたっけ?」
そう尋ねてくる隣の席の女子に向けてだった。
もう新入社員とは言わないものの、今期の異動でその仕事を任された新人だ。
急ぎの要求に自分の担当を素早く切り上げ、手を貸すこととなった私は、いつも以上に慎重に進めなければならない。
間違えては、助けにはならないのだから。
「できましたぁ」
彼女が、最後のファイルを纏めて席を立ち上がったのは、課長の要求時間通りに終了した。
実に奇跡というべき早さで終えたことに彼女は、とても満足そうな笑顔を見せてくれた。
(良かったね。私も充実感だよ…)

 今、身体は、疲れているし、パソコン画面をずっと見ていた所為で目だってずっと瞑っていたいぐらい疲れた。
事務所内をコピー取りやFAX送信、書類集めで歩き回った。
その所為で、今朝履いたおニューのパンプスで踵には水ぶくれができ、いつ潰れてもおかしくないほどだった。
 それなのに……。
そう、思考がうまく働いていなかったから、そんな行動をしてしまったのだと思う。

 出会い二十分前。
 私は、仕事を終えて駅へと向かう道にある書店に立ち寄ろうと歩いていた。
今すぐ読みたい本があるわけでも、毎月購読している雑誌があるわけでもない。
 
 いつもは気まぐれにふらっと立ち寄ることがほとんどだ。

 出会い十五分前。
 だが店内に入ると、静かな空気が身体をほぐしてくれるようだった。
(ああ、やっぱり落ち着く。立ち寄って良かった。身体が求めた休息って感じ)
週刊雑誌の並びには、立ち読み客が数人。手を伸ばすと迷惑そうな顔つきで視線だけ動かしこちらを見た。
(あ、嫌な感じ!立ち読みしている方がえらそうにしているなんて)
漫画の並ぶ棚は、仕事帰りの女性が立ち止まっていた。
(ここは、少年漫画よね?)
その女性は、奥の棚のほうへ移動していった。
 私は、単行本の棚の並びに立ち寄った。
最近、お気に入りになった作家の本の場所を探した。
(あ、あった。うーん。あ、抜けてるか……残念)
次回購読しようと思っていた作品がない。おそらくこの一冊分空いている空間にそれはあっただろう。
作品名:あなたが好き 作家名:甜茶