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私を泣かせてください

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「それは自分の遊園地をけなされれば、苦情も言いたくなるでしょう。選ぶのは読者です」
「その大多数の苦情は読者から寄せられたものなんだよ。思い出の場所を穢されたってね」
 由美子は韮山の言葉に少なからず衝撃を受けた。シェスは歯に衣を着せぬ物言いで流行を追うどころか、流行を作ってきた雑誌である。その読者が「思い出を穢された」と苦情を寄せているとは、由美子にとって思いもよらない事実であった。
「まあ、君は編集のプロだ。それは私も認めるが、人の気持ちも理解した上で雑誌を作らないと、行く行くはシェスも廃刊に追い込まれるぞ。最近は老舗の雑誌が相次いで廃刊に追い込まれているんだ」
 韮山の顔はいつになく真剣だ。韮山は湯飲みの茶を啜ると、苦虫を潰したような顔をする。
「ところで昨日、重田が倒れたそうじゃないか」
「はい。今日も休んでいます」
「あまりギューギューやるなよ。君の才能がずば抜けているんだ。同じに見られたら、みんなたまったもんじゃないよ」
「お言葉ですが部長、私がしっかり要の役をやってこそ、シェスはあそこまでの雑誌になったんです」
 韮山の言葉は由美子のプライドに触れたようだ。
「あの遊園地の企画だって、文章を見れば君がほとんど校正した文章だということくらいわかる。社の出版物を私物化してもらっちゃ困るよ」
 由美子は韮山をキッと睨んだ。だが、韮山は呑気に茶を啜っている。
 由美子は韮山に「失礼します」と言って、局長室を辞した。

 その翌日の午後三時。幸三はまるで審判の時を待つような面持ちで、心療内科の待合室にいた。そこには微かな音でバロック音楽が流れ、少しでも患者の緊張感を和らげる工夫がなされているのだが、幸三にとって初めての心療内科は、やはり落ち着かない場所だった。
「重田さん、中にお入りください」
 そう医師のアナウンスが響くと、幸三は深呼吸を一回して、診察室のドアをノックした。
 米倉医師は温厚そうな中年の男性だった。米倉医師はお決まりのように「どうしました?」の一言から診察を開始する。幸三は一昨日、職場で倒れたこと、病院へ搬送されたが検査データに異常がなく、精神科・心療内科での受診を勧められたことを話した。
 すると、途端に米倉医師は貧乏ゆすりを始めた。
「で、気分は晴れないの?」
「ここのところ、ずっと重いですね」
「倒れたのは初めて?」
「はい……」