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私を泣かせてください

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「これ、『なぜか、釣りデート』を自分なりにリライトしてみたんです。編集長のお気に召すかどうかわかりませんが、精一杯書きました。よかったら読んでみてくれませんか?」
 幸三が事務封筒に入った書類を、由美子の机の上に置いた。
「そう、ご苦労さん。やっぱりあなたは記者ね。病気になってまで自分の記事をリライトするなんて見直したわ」
 由美子が早速、事務封筒を開ける。由美子はすぐさまそれに目を通し始めた。水木がコーヒーを淹れてくれた。幸三は自分の机に座り、それを啜る。由美子が原稿に目を通している間は、幸三にとって審判を待つような時間であった。
「いいじゃない、これ。前よりよっぽどいいわ。重田君もやればできるじゃない」
 そう言って、由美子はパソコンのキーボードを叩き始めた。幸三は初めて由美子に誉められた気がした。すると不思議なもので、わだかまっていた「恨み」に似た感情は薄らいでいく。幸三の中では由美子が一人の人間として揺らいでいることを知っていた。だからと言って、自分をうつ病にした相手をそう簡単に許せるものではなかった。しかし、由美子もまた変わったのだ。幸三の中には一筋の光が射していた。
「ねえ重田君、パソコン開けてみて。休んでいる間にメールが溜まっているかもしれないから……」
 由美子にそう言われ、幸三はパソコンを立ち上げた。すると、何通かの社内メールが届いていた。ほとんどがいわゆる事務連絡で、重要そうなものはなかったが、最新のメールはたった今、由美子から送られてきたものだった。そのメールにはロックが掛かっていて、他人からは閲覧できないようになっている。幸三は自分のパスワードを入力し、そのメールを開いた。
「!」
 幸三は自分の目を疑った。メールには次のように書かれていたのである。
「お疲れ様。私も鈴木慶江のCDを買って泣き明かしました。よかったら今夜、うちでワインでも飲みながら『私を泣かせてください』を一緒に聴きませんか?」
 幸三が由美子の方をゆっくりと向く。まるでその顔色を窺うように。由美子は屈託のない微笑を湛えていた。幸三はもう一度、メールに目を落とす。
(編集長が俺を誘ってる?)