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私を泣かせてください

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 由美子が詰め寄る。
「うつ病っていうのはね、心の風邪なんて言われているけど、立派な脳の病気なんだよ。脳の神経伝達物質がうまく取り込めないという異常が引き起こす病気なんだよ。人間の脳は一気には壊れないよ。時間をかけて徐々に壊れていくんだ。そしてその修復には気の長い年月がかかる。そんな病気に誰がしたんだい?」
「それは私にも責任がありますけど……」
「だったらあんたが会社と交渉して、重田さんが復帰できるようにしてもらわんとなぁ。このままリストラなんてことになったら、労働基準監督署に重田さんを行かせますぜ」
 その言葉に由美子はギクリとした。
「ははは、あんたにとって主治医訪問は薮蛇だったようだな。」
 米倉医師が愉快そうに笑った。その横で幸三は小さくなっている。
「あのー、先生」
 由美子が恐る恐る尋ねる。
「重田さんをお酒に誘ってもよろしいでしょうか」
 すると米倉医師は「ふーむ」と唸った。
「本来、精神薬にアルコールは厳禁なんだけどね。まあ、過酒にならなきゃいいですよ。それより、あんたと飲むことが重田さんにとっては苦痛なんじゃないかな」
 由美子は幸三の顔を覗き込む。幸三は困惑したような表情をしていた。

「失礼しました」
 由美子は丁寧に米倉医師に頭を下げた。
 幸三は会計を済ますと、隣の調剤薬局へと向かった。無論、由美子も一緒である。そこで由美子は幸三の受け取る薬の多さに驚くことになる。
「こんなに、薬、飲んでるの?」
「そうですよ。これが僕の薬です。安定剤に抗うつ剤、それに眠剤がないと、夜も眠れません。一端の病人ですよ」
 幸三は薬の袋を擡げて見せた。そして、自嘲的に笑う。
 由美子の瞳が哀れさを湛えていた。
「ねえ、これから飲みに行こうよ」
「え、編集長と二人きりで、ですか?」
 幸三が素っ頓狂な声を上げた。
「そうよ。あなたとは今後のことも含めていろいろと話したいし、奢るから付き合ってくれない?」
「まあ、一杯くらいならいいですよ」