小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私を泣かせてください

INDEX|14ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

「よろしくお願いされるのはこちらの方よ」
 幸三はドアをノックして診察室の扉を開けた。その向こうには米倉医師が座っている。
「すみません、先生……。今日は編集長も同席したいとのことで、一緒に来てもらいました」
 すると米倉医師は由美子の方をギロリと見た。その眼力たるや凄まじく、由美子でさえ半歩退いたほどである。それは普段、幸三をはじめとする患者に見せる目つきとは明らかに異なっていた。
「重田さんの直属の上司で編集長の大田と申します。本日は重田さんの病状と今後の治療計画についてお伺いしたく……」
「いいから、診察が先だ!」
 米倉医師は不機嫌そうに一喝した。さすがに由美子も小さくかしこまり、パイプ椅子に座った。
「ところで重田さん、最近の睡眠はどうですか?」
 幸三にそう語りかける米倉医師の表情は温和に戻っていた。
「はあ、まだ朝方によく目が覚めますね。何かこう、眠った実感がないんですよね」
「そうですか。もう少し眠剤に安定剤を追加するかなぁ……」
 そう言いながら、米倉医師はカルテに何かを書き込んでいる。
「気分の方はどうですか。今日、上司の方が見えていますが……」
「ドキドキしますね。やはり掌にはじっとりと脂汗が滲んできますよ」
「日中の過ごし方は?」
「ゴロゴロしています」
 幸三が笑った。
「いや、今はそのくらいでいいんですよ。そのうち趣味でも始めるといいです」
「と、まあ、こんな具合なんですよ」
 米倉医師は由美子に向き直った。由美子は先ほど一喝されたためか、ただ恐縮している。
「診断書は一ヶ月で書きましたが、あるいはそれ以上になるかもしれませんよ」
「どのくらいになりますか?」
「重田さんの場合、かなり抑うつ状態で我慢なされたようですからね。治療にはそれ相応の時間がかかります。まあ、最低でも三ヶ月、長ければ一、二年になるかもしれません」
「そ、そんなに……」
「重田さんは会社で随分とぞんざいな扱いを受けていたようですね。人格を否定されるような叱責のされ方をしたり、自分の書いた文書が通らなかったり……。そんな状況がどれほど続きましたか?」
「そ、それは……」
「でもそれは事実でしょう。それだけ心の傷が深いってことですよ」
 米倉医師は不機嫌そうにカルテに目を落とした。
「会社側としては一年も二年も待てません。何とか良くなる方法はないんですか?」