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私を泣かせてください

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 幸三は今まで主治医の米倉医師に由美子のワンマン編集長振りを随分と話していた。米倉医師も患者の話に真剣に耳を傾けてくれたのである。
「じゃあ、明後日の午後五時で……」
 幸三は渋々了承した。
「ねえ、一つ聞いてもいい?」
「何ですか?」
「重田君がうつ病になったのって、私が原因?」
 由美子は確かめずにはいられなかった。もしかしたら、その質問は更に幸三を追い込むことになるかもしれなかった。それでも今、自分のいる位置を知るために確かめねばならない質問だったのだ。
「はい、編集長です」
「……!」
 ある程度、予測していた答えであったが、由美子に衝撃をもたらしたのは事実であった。
「今、こうして話している間にも動悸がひどいんですよ。脂汗だってびっしょりかくし……。でも、この先、編集長からは逃げられませんものね」
「そっかぁ……。やっぱり私が原因かぁ。私も今日、局長にいろいろ言われちゃって悩んじゃってさぁ……」
 由美子は電話口で唇を噛み締めた。
「編集長の悩みを聞いてあげられるほど、こっちは余裕がないですよ。安定剤と抗うつ剤を飲んでボーッとしているんですからね」
「そっか……。ごめんね。じゃあ、明後日はよろしく」
 電話を切った由美子の頬には一筋の滴が伝わっていた。それはやがて溢れ出し、由美子の顔をビショビショに濡らした。
「くうぅぅぅーっ……」
 由美子の口から嗚咽が漏れた。

「水木君、再来月号の特集、変更よ。あなたの『浅草が熱い』にするわ。すぐに原稿仕上げて」
 翌日の朝一番で水木は由美子からそう言われた。
「でも編集長、特集は『なぜか、釣りデート』じゃないんですか?」
「重田君が復帰するまで延期よ」
「編集長がリライトすれば済む話じゃないですか。フォーマットも持っているんだし」
 横から中堅記者が茶々を入れた。
「あの記事はね、重田君じゃないと書けないのよ。それにみんなも自分の記事に責任と誇りを持って頂戴」
 水木が目を丸くした。他の記者たちは肩をすくめている。
「あのー、『浅草が熱い』の記事なら、もう書きあがっているんですけど……」
 水木が恐る恐る切り出した。
「なら、見せて頂戴」
 水木が事務机の引き出しから原稿を取り出すと、恭しく由美子に差し出した。
「ご苦労さん。早速、読ませてもらうわ」