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厨二物語・天馬崎筑子の昏睡兵器

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などと笑う。たれ目は途端にガクガクと見るからに震えだし、天馬崎さんから目を逸らしたくても逸らせないような、そんな脅迫概念じみた視線を向けていた。
「君たちが指示通りに動いてくれるなら、ここで手打ちにしてあげても良いのだけど。ね。」
妖艶とも言える仕草で、天馬崎さんは言った。
「な、何が望みだ…。」
オールバックの男が、搾り出すような調子で言う。
「だーかーらー。最初に言った筈なのだけどー?」
微笑むような表情だが、何処か苛立っている様にも感じる。
「これ以上渋るようなら君らも覚悟をした方が良いのだけどー?」
その言葉が決め手になったようだった。
男たちが動こうとした瞬間、
「動くのはそこのオールバック、君だけ。そっちのたれ目は黙ってみてるのだけど。」
と、天馬崎さんが釘を刺す。
オールバックの男は一瞬身体を震わせたが、その後、静かに金庫からお金の束を取り出し、天馬崎さんに手渡そうとする。
受け取る直前、あと一歩のところで天馬崎さんが小さく呟いた。
「何?刺し違えるつもり?下衆の考える事って大体同じなのだけど。」
そのままお金だけもぎ取って、一歩下がる。
すると、天馬崎さんの背中で見えなかった男の手元が見えてきた。
――黒く重厚そうな、明らかに規格外のスタンガンが、手に握られていた…が、
「――かはっ…、ば、けもの…」
それだけ言って、男はどさりと倒れこんだ。
それは、意識を失った人間の、重力に全ての体重を預けたものの落ち方だった。
――バチンと、倒れた身体が一瞬跳ねる。
音がした事からスタンガンがついたまま、その上に倒れこんでしまったらしい。
「そうなのだけど。僕は≪昏睡兵器≫の天馬崎筑子。」
残ったたれ目の男に向き直りながら、天馬崎さんはクスリと自虐的に微笑んだ。
「まさかとは思ったけど。僕にここまで喧嘩売れるなんて、君らもしかしてこの辺素人?」
ふと気にかかったように天馬崎さんが首をかしげた。
「だ、だったら何だってんだよ…っ!!!」
たれ目が自暴自棄にでもなったかのように叫ぶ。
「僕はこれでもこっちじゃ名の知れたカウンセラーなのだけど。それを知らない時点で君らはこの街に居ちゃまずいのだけどね。」
ふぅ…と、ため息を付きながら、納得したように天馬崎さんは言う。
私は……なんて人にお願いをしてしまったのだろう。
今になって思う。後悔はしていないが、それでも、少しの恐怖が心に芽生える。
「な、に…?」
「君ら、前の場所と同じだとカンチガイしてるのだけど?だったらここはマズいのだけどー。」
受け取ったというより奪い取ったと言ったほうが正しい様な手段だったが、目的の札束を手に、天馬崎さんは言う。
「だってぇ。ここには≪日常を守りたい人間災害(トチ狂った化物)≫とか、≪必要悪を体現するような皮肉屋(他称正義の味方・自称ワルモノさん)≫とか。」
札束で扇子の様に使いながら、聞いたことも無いような名を歌うように言いながら、
「≪絶愛主義の心理療法士(ぼくみたいなの)≫が、いるのだから。」
最後に自分も含めて付け加えた。
「だから、君らみたいなゲスが、居ていい場所ではないのだけど。」
札束をまとめ、ビシッと突きつけるようにたれ目に向ける。
「ほら、僕以外が来る前に、さっさと逃げると良いのだけど。」
そのままひらひらと振りながら、心底面倒臭そうに言い放つ。
「彼らは僕のように優しくないのだから。ただ、ぶち抜かれるか砕かれるか燃やされるかの違いしかない化物どもなのだから。」
そんな怖い人たちと、自分を同列のように語る天馬崎さんの表情は、私の側からは見えなかった。
しかし、なんとなくそれは、どこか諦めているような、悲しげなものだった。
「――ひっ、ひぁ…」
喉が干からびるような声色で、たれ目がへたり込む。
「ほら、逃げ帰りなさい。下衆の巣へ。」
軽口を叩く様な言い草で、天馬崎さんはたれ目に背を向け――私の方を向く形で、こちらに向かってくる。
「さて、私の仕事はコレで終わり。後はどうとでもなるでしょう。」
私の前で止まると、天馬崎さんは札束から十数枚お札を抜き取りながら、残りを私に手渡してくる。
「え、あ。…はい。」
口調は柔らかい物の、有無を言わせないような力強さのある言葉に流され、私は札束を受け取ってしまう。
「さて、今日はこのまま帰りましょうか。家まで送った方がいい?」
来た道を戻りながら、天馬崎さんは私に問いかける。
「いえ、表通りまでで大丈夫です…。」
答える私の声は、天馬崎さんと出会ったときよりは、力強かったと思う。
「そう…じゃあ、また明日学校で。」
表通りに出る頃には天馬崎さんは先ほど扉を蹴破り大乱闘を繰り広げた女性とは思えないような清楚な印象に様変わりしていた。
「――そうでしたね。ちゃんと学校に戻らないとですね。」
言われて気付いたが、後でちゃんと蔓にもお礼を言っておかなければと、思い返す。
天馬崎さんを紹介してくれたのは蔓だった、天馬崎さんが居なければ…今頃私はまだクスリに手を伸ばしていただろう…。
本当に、持つべきものは親友だと、ここ数日で思い知らされた。
「また何か相談事があるなら乗るわよ。有料だけど。」
軽口を叩きながら、天馬崎さんが柔らかく微笑む。
「誰かを紹介してくれるならその時は少しだけ安くしてあげる。」
見事な営業スマイルだったが、私にはこれで十分すぎるほどだった。
天馬崎さんの本当の気持ちなど、私には推し量る事などできるはずもないのだから…。
「分かりました。」
だから私は、ただ一言。
それだけでも、天馬崎さんには十二分に伝わっている気がする。
「それじゃあ、私はここで。」
ヒラヒラと手を振りながら、高級そうな鞄をぶら下げて、天馬崎さんは帰って行った…。