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厨二物語・天馬崎筑子の昏睡兵器

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「あの…えっと…天馬崎さんは、なんでこんなに裏の世界に詳しいんですか…?あの事務所だって…」
とりあえず、質問しても大丈夫な雰囲気だったので、私は気になった事を口にした。
「ああ。その事。簡単な話なのだけど。僕も昔は君みたいに裏(こっち)に憧れ…はしてないけど、ちょっと人と違った生き方がしてみたかったのだけど。」
口調の違和感をそのままに、天馬崎さんはくるくると回りながら前を歩く。
その様子は、歳相応の少女の様にも、何かを諦めて自暴自棄になっている様にも、見えた。
「カウンセリングを始めたのも、私は人の心を自由自在に出来る才能があるから、その才能を自由に使って、縛られること無くお金を稼げる仕事って感じで始めたのだけどね。」
薄々そんな気はしていたが、本人の口から聞く言葉は、若干の意味を変えて私に届く。
心を操る力。それは、人が誰しも多少なり持っている力だとは思う。
ある時は好きな人の好意を惹く為。またある時は、敵対した時に容赦なく憎めるように、敵の敵を増やす為に。
それにも限界がある。しかし、天馬崎さんのいう『力』というのは、それらを超えた物ということだろう。
ある種超能力じみた天馬崎さんの洞察力は、その域に達していると思う。少なくとも私は、違和感なくその事実を認識した。
「何処から聞きつけたか分からないのだけど。ある日ヤクザのボスが態々私に愚痴ってきてね。そこから秘密を秘密で覆い隠してお金を稼いでは使う日々。って感じなのだけど。」
諦めたように、というか、過去の自分自身に呆れた様に、天馬崎さんは笑いながら言った。
それが、天馬崎さんの裏への軌跡(ルーツ)。
私と似た物だったのだろうか…。
こんな人も、私と同じく、暗い部分を覗いてしまっただけなのだろうか…。
「自分と似てると思った?」
微かに笑いながら、天馬崎さんはそんな事を言った。
「えっ、そ、そんな事は…。」
丁度思っていたことを的中されて私は慌てるが、やはり慌てる事すら無意味に思えて、落ち着きが戻ってくる。
「まぁ、大抵踏み込む理由なんてそんな物なのだけど。」
私の反応など興味の外の様に、天馬崎さんはビルの間から覗く空を見上げながら手を伸ばす。
「だからこそ、僕は君を助けてあげる気になったのかもしれないのだけどね。」
此方から顔を逸らすようにしながら、天馬崎さんは言う。
「……天馬崎さん…ありがとうございます。」
自然、私の口からは感謝の言葉が零れていた。
それは、私が天馬崎さんに始めて、本当の意味で心を開いた証だった。
「クーリングオフ出来てから言って欲しいのだけど。別に良いのだけどね。さて。ここで良かったのだけど?」
私の言葉をあえて流すようにしながら天馬崎さんは一つの建物を指差した。
そこは私の通いなれてしまった、古びたビルの一角。
表向きは卸売り業者の事務所だが、その裏では怪しいモノを売買している、所謂裏のお店だ。
「あ、はい。ここです。」
意識を現実に引き戻され、慌てて答える。
「そう。じゃあ…。こーんにーちわー。なのだけどー。」
確認するや否や、流れるような動作で扉を蹴破って事務所内に突入する天馬崎さん。
格好良過ぎ。
というか、この後が怖くて足が震える。
「あぁ?」
若干の間が空いた後、凄みのある声が事務所内から聞えてくる。
「お嬢ちゃん、何処から来たんだ?噂を聞いてコレを買いに来たのか?」
明らかな嘲りを含んだ口調で、男の声がする。
「むしろ君らに巻き上げられたお金を返してもらいに来たのだけど。」
そんな声に臆するどころか、まるで気にも掛けていないような天馬崎さんの声。
多少間が空いた後、笑いが起きる。
「聞いたか?このお嬢ちゃん、どうやら俺たちからお金を返してもらいたいらしいぜ。」
「こんな子しらねーなぁ。」
「だよなぁー。こんな美人なら忘れねーって。」
からかう様な調子で笑いあう男たちの声が聞える。
さすがに不安になって、私は扉に隠れるようにこっそりと中を覗きこんだ。
「あらあら。美人は嬉しいのだけど。生憎僕は君達みたいな下種には興味ないのだけど。」
私が見たときには、丁度天馬崎さんが4人の男たちにそんな事を言っている最中だった…。
「あ、天馬崎さん!!!」
私は思わず声を掛けてしまい、結果として、部屋の中の全ての視線をこちらに向けてしまうこととなった…。
視線のコワさに、足が震えて一歩後ずさってしまう。
「ああ、この子は私のお客さんだから無視していいのだけど。」
視線を再度、自分に引き戻すように、天馬崎さんが男たちに言い放った。
「って言うか、君らがこの子から巻き上げたお金を全額払ってくれるのなら、私だってこんなゲスい場所さっさと出て行くのだけど。」
――天馬崎さん…どうしてそこで一言多いんですか…。
引き戻した視線が一気に殺気立って行く。
短く刈り込んだ金髪の男が、ポケットから小ぶりの折り畳み式のナイフを取り出す所を、私は見た。
しかし、それがどういうわけか、天馬崎さんに振るうでも、私に振るうでもなく、自分の足に突き立てていた。
「――っ!?ぐ、ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!」
刺した本人もどうして自分に刺してしまったのか分からないらしく、一瞬何が起こったのか分からない様な呆けた顔の後、絶叫を響かせた。
「お、おい、何やってんだよ!!!」
「バカ!!抜いたら血が出る!!包帯もってこい!!!!」
その男の挙動一つで、事務所内が混乱の渦へと叩き込まれたようだった…。
「あっはっは。頭が沸騰しすぎてぶっ壊れちゃったのだけどー?」
そんな中、一人だけ微動だにしなかった天馬崎さんが、突然笑い出してそんな事を言う…。
まるで、男の挙動を天馬崎さんが操っていたかのように。
「て、てめぇ!!!何しやがった!!」
傷口を押さえながら介抱する、ドレッドヘアにサングラス姿の男が叫んだ。
「何もしてないって言えば嘘になるのだけど。僕からは何もして無い、のだけど。」
そんな怒号は聞き飽きたと、表情で雄弁に語りながらも、天馬崎さんは輪ゴムでも飛ばすかのように人差し指を構える。
「BANG♪」
一言、ドレッドヘアの男に向かって指を振っただけだった。
「…あ、がっ…い、でぇ…痛ぇよぉ…」
それだけで…突然男が腹を抱えて痙攣し始めてしまう。
残る二人は慌てて、足を怪我した金髪と腹を抱えて蹲ってしまったドレッドの男に駆け寄ろうとした瞬間、
「動くな。なのだけど。」
天馬崎さんの一言で、完全に動きを止めた。
「そこの、そう。そっちのオールバックの偉そうなの。」
構えたままの人差し指を、左後方に居たオールバックの男に合わせる。
「うっ、そ、その指をこっちに向けるな!!!」
その指の直線上から逃れたいがために、無駄だと分かっていながらただそれだけの為の、無様な防御だった。
そんな男の様子を嘲るように、天馬崎さんは笑う。
「あっは。僕は指なんか使ってないしぃ、なのだけどー。」
そのまま視線を軽く残りの男、黒髪のたれ目の方へ、向け、
「このまま君じゃない方のをつぶすことも余裕なのだけど。」