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厨二物語・天馬崎筑子の昏睡兵器

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ちょくちょく左へ右へと曲がり、怖い顔の、明らかに真っ当な人間ではないような人たちの横を通り過ぎ、その都度恐怖に心臓を締め付けられるような思いでたどり着いたからだ。
案内された場所は昼間にもかかわらず迷路のように入り組んだ路地裏なので、日の光も無く薄暗い、オマケにゴミなども道端に平然と転がっていて汚れた印象を受ける路地に建っているビルの一角。
しかし、入ってみると、小説や漫画などで見る探偵事務所のようなものを髣髴とさせるような奇麗に整えられた、豪奢ではあるがどちらかというと清潔なイメージの強い事務所と言った所だった。
促されるままに薄緑色のソファに座る。とても柔らかく、そのまま沈み込んでしまう錯覚さえ覚える。
「その辺に座ってて。まぁここは来る時も見たと思うけど、かなーり下種いところだから、一つや二つのヤクでなんか言われる心配も無いし。不安なら一発ヤっとくのもありだとおもうけれど。」
天馬崎さんはそんな事を言いつつも、自分のデスクだろう場所にぞんざいな扱いで鞄類やコートを投げると、私の向い側の大きめの淡い緑色のソファにゆったりと腰掛ける。
「…私は、薬を止める為に、相談しに着たんです…だから、今からでも、我慢…します。」
それを何とかするためにここまで来たのだから、今やってしまっては本末転倒もいいところだ。
私は頑なに首を横に振ったが、天馬崎さんはそんな物は予定調和だとでも言わんばかりの表情で何度か頷くだけだった。
「ふぅん。本気で止める気はあるみたいね。ならよかった。いくら私でもやめる気のない人に止めろなんて、お金貰ったってしたくないわ。」
などと嘯きながら、天馬崎さんは手を差し出す。
商談成立という事だろうか…?
手を出しかけた時、天馬崎さんは釘を刺す様に、
「…薬は?」
と言った。
「え?」
「つかまされたヤクは持ってきてるの?って聞いたつもりだったんだけど。」
私は一瞬呆けてしまったが、私が使っている薬物を見せろという意味らしかった。
「え、あ。はい…一応、持って来てはいます。」
言いながら、私は鞄の底の方にしまいこんだ錠剤を取り出し、天馬崎さんに手渡す。
錠剤を受け取り、一粒取り出して、色んな角度から暫く観察するように見た後、
「…ふぅん。これがねぇ…。あー。はいはい。『D』だね、これ。あれ…ちょっと違うかな。タイプが新しいし。」
自己完結の為だけに呟くような調子で錠剤を掌で転がした。
「あーあー。あのバカまた何かばら撒いてるわけね。」
錠剤を握りつぶしながら、天馬崎さんは若干憤るような様子で持って呟いた。
手の中から、握りつぶされて砕かれた錠剤が零れ落ち、それすらもこれ以上触りたくない意思表示か、それともただ単に手が粉っぽくなるのを嫌ってか、何度か手をはたくようにして粉を払う。
「それで…。この販売元ってのは何処だったのかしら?」
私に向き直りながら、天馬崎さんは軽口を叩く様な調子のまま尋ねる。
「えーっと…」
そんな天馬崎さんに若干の困惑を抱きながら、どう返答したものかと言葉を濁していると
「なんなら貴方が誰から買ってるかだけでも。というか、販売してるやつんとこに案内してくれるだけでも良いわ。」
などと、勝手に話を進めてしまう。
しかしそれは、私の当初の依頼内容から大きく逸れているように感じた。
私は元々、薬を止められて、日常に復帰できればそれで良かったのに、何故こんな話をしているのだろう。
しかも、事務所を見回せば見回すほど、ただの一高校生が所有できるレベルを超えてしまっている様に思う。
そもそも、ただの高校生はカウンセラーなどしないし、おまけを言うなら、物件を所有できるはずも無いのだった。
「え、でも…私の薬物中毒から抜ける為だけに、態々あんな人たちと合わなくても…」
話を戻すと共に、若干の猜疑心からついつい本音を出してしまう。
「違うわよ。貴方の依頼自体はここに来るまでに大体、そして今までの会話の中でホボ完遂してるもの。」
そんな私の様子すらも想定内だったとでも言いたげな口調のまま、天馬崎さんは言った。
…依頼自体はホボ完遂している?
どういうことだろう。私は未だに薬物を所持しているし、脱却できているかどうかは分からない。
…だが、心なしか今までの様に薬物を欲しいとは、思わなくなっていた。
「これからは私の報酬の部分よ。」
私自身の不思議な納得感の余韻に割り込むように、天馬崎さんは続ける。
「どうせヤクにつぎ込みすぎて手持ちだってないんでしょう?」
戸棚の脇においてある小さい冷蔵庫から、紅茶と思しきペットボトルを取り出して此方に渡しながら、自分の分のキャップを外して口に含んで、彼女は笑う。
「…えっと…お恥ずかしい話ですけど…その通りです。」
飲み物を受け取りつつ、私は恥かしさから俯くようになりながら天馬崎さんに答えた。
「だーかーらー。私が直々に直談判してそいつらが貴方から巻き上げたお金をクーリングオフで返してもらうって訳。その何割かを報酬で貰う。それでいいわね?」
ボトルの蓋を閉め、そのままバトンのようにクルクル回して手の中に収めながら、天馬崎さんは鞄から小さなメモ帳を取り出しつつ、有無を言わせないような口調で言った。
「は、はい。…でも、そんな事が出来るんですか…?」
ちょっとコンビニに行く程度の気軽さで、あのヤクザ紛いの恐ろしいごろつきからお金を奪い返すなんて事をさらりと言ってのける天馬崎さんに、私は別の意味で背筋に薄ら寒いものを感じる。
そんな感情すら、読まれてしまったかのように、彼女、天馬崎筑子はシニカルに笑う、どこか諦めたようにも見えるその表情は、私を何故だか安心させた。
「私の名前は天馬崎筑子(あまざき つきじ)。昏睡兵器(コールドアームズ)の天馬崎筑子よ。裏(こっち)じゃある意味、表よりも有名だったりするから。その点は心配しなくていいわ。」
軽口のように言うその言葉は、やはり私には意味不明だったし、表と裏という世界の区切り自体、私はつい最近触れて、超えてしまったばかりなのだった。
高そうなコートを羽織り、ブランド物のバックを持った天馬崎さんが、私の手を取る。
「とりあえず、案内してくれるかしら。」
私の手を取りながら尋ねる一言に、私は一瞬困惑してしまった。
「えっと…何処へ?」
「定期的にヤクを買わされてたなら、売ってる場所も知ってるでしょう?」
天馬崎さんの言葉で漸く目的を思い出し、
「…あ、はい。」
呆けたような返事をしてしまったが、今更この人にそんな気配りは必要ないだろうと、気を取り直して私は立ち上がる。
「貴方は場所を教えてくれて、ここで待ってるだけでも良いのだけど。どうする?」
「私も、行きます。私の事ですから。」
「良い返事。じゃあ、行きましょうか。」
それだけ言って、私たちは事務所を後にする。
路地裏を歩きながら、前を迷い無く、まるで自分の庭のように無防備に歩く天馬崎さんに、ふと気になった事を尋ねてみることにした。
「あの…天馬崎さん…。」
天馬崎さんは、声を掛ける私に、くるりと体ごと身体を私に向ける。
「ん。何なのだけど?」
口調が若干変わった気がした。