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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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夜のなく声

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 すべてを思い出し、私の意識は過去から現実に戻された。
 漆黒の少年、黒猫は語る。

「俺はお前などどうでもいい。生きていく糧が欲しかった。食糧があればそれでよかった。それだけだ。けれど、お前は俺を愛した。そうだろう。愛など生き物には不必要なのに」
「そして、殺した」

 私の背筋に冷たいものが走る。この場から逃げ出したい気持ちになる。これは私の罪。私の罰。決して逃げることはかなわないのだ。

 ああ、この少年の名前は……。私はやっとその言葉を思い出した。
 小さい頃の私の言葉。
”あなたは夜だよ。真っ暗な夜。わたしは朝だからおそろいだね”

 猫の名前は「夜」。漆黒の闇の名前。恐怖と安らぎの夜。
 私の名前は朝野美弥、「朝」。白く照りつける光の名前。優しくも残酷な朝。



 朝と夜はひとつでふたつ。

 けれど、朝と夜は決して出会うことの無い双子。
 最も近くて果てしなく遠い存在。



 黒い猫は、夜は冷たい瞳のまま言う。

「お前を殺してやるよ。それが俺の心残りだったから」

 夜の手が私の喉にかかる。ひんやりと冷たい手には、それでも暖かさが宿っているように感じた。私の心は不思議と凪いでいた。罰を受けられることに安堵しているのかもしれない。私は罪深い。自分の犯した罪を思い出すことも無く生きてきたのだから。最低な生き物。

 夜は無表情な顔で私を見ていた。

 夜が小さな声で呟く。
「お前は何を望む。俺は何を望む」
 私の望み……、黒い闇に染まって何も見えなくなること……。今ならそう思える。夜の望みは何なのだろう。私が奪ってしまった生は。

 夜の指が私の喉に食い込む。次第に苦しくなってきて、私の手は夜の手を引き剥がそうともがく。そんな自分を抑えようと私は自分の心に抗う。

「美弥、お前は何を思っていた。朝、お前は何を思っていた」
 私は、わたしは、わたしは……。
 …………。
 ……………………。
 そのまま私の意識は暗闇へと沈んでいった。
作品名:夜のなく声 作家名:冬野すいみ