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青春の残像~IN MY LIFE

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 僕のその言葉に、真理の身体がビクッと跳ねたのがわかった。それはおそらく僕にしかわからなかっただろう。かつて肌を重ねた者同士にしかわからないこともある。
「いや、別に変な意味じゃないよ……」
 僕は慌てて弁解をした。別に真理をどうこうしようなんて気は今更ない。ただ、僕しか知らなかったはずの真理を抱く、彼女の夫にまったく嫉妬しなかったと言ったら嘘になるだろう。男とはそんな生き物ではないかとも思う。逆に真理は僕に妻がいると知ったらどう思うだろうか。
「君も結婚しているんだろう? 僕も結婚して子供が二人いるんだ」
 ようやく真理の顔から緊張が解け、頬が緩んだ。 
「そうだったんだ。坂井君、今は何をやってるの?」
 真理が笑顔で尋ねる。
「ふふ、普通のサラリーマンさ。ちょうどバブルが弾ける直前だったから、うちらの世代はラッキーだったかもね。でも苦労するよ。下手するとリストラだもんね」
 僕も真理に笑顔を返す。もう真理に何を話しても大丈夫だろう。
「私も子供がいるの。一人だけどね」
「そうかぁ……。お互いにそれぞれの道を歩み始めて、それなりに経つんだなぁ……。僕はこれからも、会社の往復と住宅ローンだよ」
 僕は真理にビールを勧める。真理はコップに金色の泡を受けながら言った。
「私も子育てしながら働いているんだけど、PTAに駆り出されたりして、それなりに大変なのよ」
 そう言う真理の言葉は決して嫌みでも、悲観的でもなかった。むしろ、サラッと笑うように言って退けた。
「幸福かい?」
「えっ? ええ、とても幸福よ」
 真理は一瞬、びっくりしたような顔を覗かせた後、目尻を下げて微笑んだ。
「僕も何だかんだ言っても幸福さ。みんな、家族と自分の生活を守りながら、今を精一杯生きているんだ。お互いに無理せずに頑張ろうな」
「そうね……」
 僕と真理は見つめ合った。それは未精算だった恋人同士の関係を解消し、お互いに忘れられない時間を共有した、男と女の友人同士のエールの交換でもあった。
 青春の残像が未来への活性剤になった瞬間だった。

「宴たけなわではございますが……」
 幹事がマイクに向かった。次の同窓会は五年後に行われるという。
 会場を後にする時、今度は僕から真理に話しかけた。
「五年後を楽しみにしてるよ」
「私も楽しみにしてるわ」