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青春の残像~IN MY LIFE

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「ああ、久しぶり。元気だよ……」
 僕の口調はいささかぶっきら棒だったかもしれない。本当はもっと温かく迎え、話したいこともあるのに。
「今日ね、どうしてもあなたに返したいものがあるのよ」
 真理が困惑したような表情で僕を見つめる。
「僕に?」
 唐突に真理から「返したいものがある」などと言われ、僕も困惑した。
(一体、何だろう?)
 僕はハンドバッグをまさぐる真理の手に注目した。やがてバッグから引き抜かれた彼女の手には、一枚のCDが握られていた。
「あなたから借りたTHE BEATLESのCD……。今まで返しそびれちゃっていて、ごめんなさい……」
「あっ、RUBBER SOUL……」
 それは僕が高校時代に買い、真理に貸したCDだった。当時はCDがようやく普及し始めた頃だった。真理はこのRUBBER SOULというアルバムの「IN MY LIFE」という曲がお気に入りだった。
 僕は大学に入ってから、アルバイトで稼いだお金でTHE BEATLESのアルバムを揃えたが、RUBBER SOULだけは買う気になれなかった。それは高校時代に清算せずに置き忘れてきた、真理との想い出を上書きできなかったからだ。まるで永久欠番のように、RUBBER SOULだけ揃わなかったのである。

 僕は真理の少し肌のキメが粗くなった手からRUBBER SOULを受け取った。同時に走馬灯のように真理との想い出が頭の中を駆け巡る。
 河原の葦原で隠れるようにして、初めて重ねた唇と唇。何とかベリーのような甘酸っぱい味がしたっけ。
 僕の部屋でよく聴いたTHE BEATLES。とりわけよく聴いたアルバムがRUBBER SOULだ。真理が何度も「IN MY LIFE」をおねだりしたっけ。
 そして僕らは磁石が引き合うように、自然と肌と肌を重ね合った。まだ青くて蕾だった真理。まだ樹にならない青い茎だった僕。それでも夢中だった。僕は真理の白く、柔らかい身体を何回抱いただろうか。
 真理の身体の特徴を言えと言われれば、今でも言うことはできる。それは二十年前に置き忘れてきた記憶だった。
 それが今、RUBBER SOULとともに戻ってきたのだ。
 そして最後に真理が付け加えた「ごめんなさい」という言葉に、僕は二十年間を埋める温もりを感じていた。

「まだ十分若いけど、君は綺麗に歳を重ねたね」