チ〇コを出す
なるほど、その気持ちは理解できる。由美自身も、告白は電話やメールより、対面がいいというタイプだ。せっかく対面したのだから、目を見て言って欲しい気持ちはある。すると博はポケットに手を入れて、なにやらごそごそとし始めた。ポケットに何を入れているのだろうか。由美は黙って博を待った。博はポケットから、丸いものを取り出した。野球のボールだった。
「由美さんに、これ、見せたくて」
由美は意味が全く分からなかった。こんな物見せられても、はっきり言って困る。その困惑を察したかのように、博は言葉を続ける。
「ごめん、こんなもの見せられても困るよね。僕、中学の時野球部に入ってて。大事な試合の時は、いつもこのボールを持って試合に行ってたんだ。僕にとっては、このボールが勇気の出るお守り、かな」
その言葉を聞き、やはり彼がこれから言おうとしていることは、とても勇気がいることなのだと思った。次の瞬間、博の手からボールがこぼれ落ちた。手が滑ったのだろうか。ボールは由美の足のそばを通り抜け、コロコロと転がっていく。由美は親切心を発揮し、ボールを追いかけた。博の代わりに拾ってあげようと思った。それは彼の思う壺なのだが。ボールを追いかけていく由美の後姿を見ながら、博は素早くジャージのズボンを下ろし、チ○コを露出した。1秒数えた時点で、由美はボールに追いついてしまった。由美は意外と機敏だった。焦る博。2、3、数えて、素早くしまう。
由美はボールを拾って、博の方を振り返った。違和感があった。博がズボンを上げるような動作をしたように見えた。ズボンを上げる動作?まさか自分が後ろを向いている間に、アレを出していたのだろうか。そんな風に考えて、自分の馬鹿な発想に笑えた。そんなわけないと思った。自分のおかしな考えを振り払い、博にボールを手渡した。
「はい。落とさないように、気をつけてね。大事な物なんでしょ?」
お礼を言い、ボールを受け取る博。2回目、ミッションコンプリート。
第3ラウンド 残り露出回数3回 残り時間7分
博の心臓はまだ爆発するかのように大きく音を立てて鼓動していた。今のはやばかった。ギリギリだった。ズボンを上げる動作まで見られてしまったかも知れない。しかし、とは言え、セーフだ。チ○コを見られたわけではない。博は内心で達成感を噛み締めた。そして、由美から返してもらったボールをズボンのポケットの中に入れた。次の瞬間、博は大きな声を出した。
「あっ!由美さんあれ見て!あれ何?UFOじゃない?」
そう言って、博は空を指差した。由美はそれを受けて空を見上げる。
「え?ほんと?UFO?どこどこ?」
由美は空を見上げたままUFOを探している。その間にも博はすぐさまズボンを下げ、チ○コを出す。1、2、3。心の中で3秒数え、素早く息子をしまう。ギリギリ。タイミングとしてはさっきと同じだった。ギリギリセーフ。チ○コをしまったと同時に、由美が振り返ったのだ。なんにしてもセーフ、と、博は楽観していたのだが。3回目、ミッションコンプリート。
「もう、UFOなんていないじゃない」
と言いながら振り返ると、博は再びズボンを上げるような動作をしていた。それを見て由美は思う。何してんのこの人、と。それを見たのが一度だけならば、さして疑問にも思わなかったであろうその動作。しかし、2回続けて、博がズボンを上げる動作をしたのを見てしまった。しかも、2回とも、由美が余所見をしていた時だった。もしかして、この人、余所見をしている間に、アレを出していたんだろうか。そこまで考えて、やはりそんな自分の考えは突飛な発想とも思えてくる。いくらなんでも、そんなことはしないだろうと。しかし、そうやって自分の中で否定してみても、疑惑の念は心に残った。なんとかして、確かめる方法はないだろうか。彼がチ○コを出しているのか、それとも、そんなことはしていないのか。
次の瞬間―――ひらめき。そうだ、スマホのあのアプリを使えば確かめられる―――。
第4ラウンド 残り露出回数2回 残り時間6分
UFO騒動を終え、博は「あの、由美さん」と、また由美に話しかけたのだが、「ちょっと待って」と、制されてしまった。
「ごめん、メールが着たみたい」
由美は博に一言謝ると、ポケットから携帯を取り出した。買ってもらったばかりのお気に入りのスマホだった。実際はメールなど着ていなかった。メールをチェックするフリをして、スマホのあるアプリを起動させ、さりげなく、そのまま博に背を向けた。いかにも夢中でメールに返信をしている体を装って。さあ、アレを出すなら出しなさい。
由美が後ろを向いてスマホをいじっているのを見て、当然博はチャンスだと思った。どうやら彼女は今メールの返信に夢中らしい。よし、今だ、出す。出してやる。僕は男だ。怖くない。出すと言ったら出してやるうぅ!博はズボンに手をかけた。
博は由美がメールの返信に夢中と思っていたところが―――由美はスマホのアプリ「どこでも鏡君」を起動させていた。このアプリは、スマホが手鏡の代わりになるという便利アプリで、起動させると、スマホの画面を鏡として使うことができるのだ。由美は博に背を向けていたものの、実は鏡越しに博を見ていた。どう行動するのだろうかと、見張っていたのだ。そしてついに、博は自分のズボンに手をかけたのだった。確信―――彼は、否、アイツは、あの変態野郎は、私が余所見をしている間にアレを出していたのだ。なんていう屈辱だろうか。私は告白されると期待していたのに。ズボンに手をかけた博を見て思う。さあ出せ。出した時がおまえの終わりだ。振り向いて、悲鳴をあげてやる―――次の瞬間。
「ツッタカタッターツッタカタッターツーツーター。ツッタカタッターツッタカタッターツーツーツー」
人の神経を逆なでする音楽が鳴り響いた。由美のスマホの着メロだった。どうしてこんな時に!由美は電話に出ると同時に素早く後ろを振り返って、博の股間を凝視した。しかし、彼はチ○コを出してはいなかった。頭の中で激しく舌打ちした。きっと、着メロに驚いて露出をやめてしまったのだ。なんていうバッドタイミング。
一方博は安堵していた。まだ出してなくてよかったと。着メロが鳴るのがあと1秒遅ければ、自分は出してしまっていただろう。ギリギリ、助かった・・・。それにしても気になるのは、由美が振り向いたときの表情と視線だった。あれは明らかに、怒りの表情で博の股間を凝視していた。博の頭に湧く一つの疑念、もしかすると、彼女は僕がチ○コを出そうとしていることに、気づいているのではないか。その現場を押さえようとしているのではないか。
もし、だとすれば、これからの2回は、今までのように視線を逸らしている隙をつくのは、逆に大変危険な行為になる。なぜならば、視線逸らしをフェイントとして使われる可能性があるからだ。他に注意を向けているフリをして、いきなり振り返るというワザを使われたら、おそらくアウトだ。もし彼女がチ○コ露出の現場を押さえようとしているとしたら、そういったフェイントを絶対に使うだろう。