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そんな二人で手を繋ごう

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3.そんなことさえ言わなかった



確かに、受験勉強が面倒くさくて元々可もなく不可もなくな頭をしていた俺は、それに見合った可もなく不可もなくな学校、盛南高校を選んだ。公立にはちょっと珍しいかもしれない男子校だ。
因みにこいつは最初っから、てか中学校の時からこの高岡台を受験していた。所謂エスカレーター組だ。言っておくが寮もなければ男子校というわけでもない。普通の共学校である。私立だけど。

「聞いてない!!」
「言ってねぇもん」

喚く勇樹にさらりと言ってやれば、勇樹が更に喚きながら机をバンバンと叩きだした。

「何それー!!なんか1年連絡つかねぇと思ったら何それー!!なーにーそーれーっ!!!!」

バンバンバンバン。
……うるせぇなぁもう。

あーあーとりあえず落ち着けと勇樹と机の間に手を入れると、今度は俺の手をペシペシと叩いてきた。
ただ机に当たっていた時よりかは大分弱い力だが。

「説明!!説明を求めるぅっ!!」
「わかった、わかったから」

確かに昔からつかず離れずの関係で唯一幼馴染と呼べるこいつにさえ何も言わずにここを離れたのは、悪いと思っている。
だけど、あの時はどうしても周りには言えなかった。
小学校の友達、中学校の友達にはここを離れるということも。そして高校の1年間で出来た友達、更にはその高校の先生にさえも、行き先は告げなかった。

「父さんが仕事で島に行くっつうから、ついてったんだ」
「なんで」
「ついて行きたかったから」

俺の父さんは絵描きだ。海外ではそこそこ有名らしい。
本人は、日本の古き良き風景を描いているんだと言っている。だからその風景の素材を求めてと突然フラフラと良く1人でどこかに出かけることが昔からよくあった。
長く家を空け続ける時もあれば、毎日家からその場に通うこともある。

今回はその諸島自体を気に入ってモチーフに選んだらしく、事前に1年ほど向こうに滞在したいのだと言い出したのだ。
そこで駄目元で「俺も行きたい」と言ったところ、驚いたことに母さんからまさかのOKを貰い、俺はとんとん拍子に父さんについて行くことに決まった。

高校はその島にはなかったので、通信制のところへと編入した。
それなら直接学校に行かなくてもレポートの郵送ですませられるし。
留年するということも考えたのだが、勉強できる時間があるんだから勉強しなさいという母さんの言いつけでそうなった。
言いつけというか、寧ろそっちのがお金も手間もかかるからそう言うのもなんか変な感じなんだけど。

向こうでは携帯も繋がらないと聞いていたので、持っていた携帯は解約した。
使えないもん持ってても仕方ねーし。

そういう理由で、もっぱら携帯で連絡を取り合っていた勇樹とは去年1年一切連絡を取ってない。
だからかここの学校に転入してきてたまたま同じクラスになった勇樹にいつもの調子で「おー久しぶりー」と声をかけたら、一拍置いた後物凄い勢いで「おま、メアドおおおおおおおおお
お!!!!!!」と胸倉を掴まれた。
でもその前に言うことはあったはずなんだけどなぁ。主になんで俺がここにいるのかとか。

「いやお前がいたのにも確かに驚いたんだけど、何よりアドとケー番の変更通知を送って来ねぇことに腹立ってたんだよ」
「家電すりゃ良かったのに」
「出ませんでしたが!?何回かけても、一向に出やしやがりませんでしたが!?因みに家にも行ったかんね!?ピンポン50回ぐらい押してやったわ!!」
「あー……、まぁあの時家母さんだけだったし。あの人忙しい人だからあんま家にも……」

まぁ、こんな感じに言伝さえも伝えられなかったらしい勇樹は最初そらもう煩かった。今でも煩いけど。
あの時はとりあえずメアドメアド騒ぐこいつに新しく買った携帯のアドを教えて、そしたらもう満足したのかその後コイツは別に何を聞くでもなく前と同じようにツルむようになった。

俺は聞かれなかったから答えなかっただけだ。別に隠してたつもりはない。
……まぁここを離れることを隠していたのは確かな事実だから、それは悪いとは思ってるけど。

「まぁいいけどさー。でも吃驚だわ。で、頭良くなって戻ってきたんだ?」
「だって島ってなんもなくてさ。勉強ぐらいしかすることねぇんだもん」

おかげで結構頭は良くなった。まぁ滅茶苦茶良いってわけじゃないからそんな大層なもんでもないんだけど。
頭のレベルにあったとこで編入生を受け入れてくれていた高校の中に、たまたま勇樹の通うこの高校があったのだ。
3年からの編入という身で、知り合いがいてくれるというのはなんとも心強いものである。
1も2もなくここを選んだことは言うまでもない。

「誰もお前の島行き知らなかったのかよ」
「ああ。知らないはずだぞ。誰にも言ってないから」
「前言ってた彼氏はそん時にはもう別れてたのか?」

勇樹はただの話題の一部として何も考えずにそう振ったんだろう。
この前の話は、きっと中々に衝撃的だったんだろうし。

でも―――あぁごめん勇樹。それはなんかまだ、地雷っぽいよ。

ごまかすように笑うと、それだけで勇樹は何事が察したのか「別にどうでもいいけど」と鼻で笑ってくれた。
そういう態度が、今は一番ホッとする。
放っておいて欲しい。勇樹は俺がそう思った時に必ずそうしてくれる奴だった。


島に行くことを誰にも伝えなかった。
小学校の友達にも、中学校の友達にも、高校1年で出来た友達にも、その学校の先生にも。
そして―――あいつにも。

だって俺はあいつから逃げる為に、誰にも告げることなくそっとこの街から離れたのだから。



作品名:そんな二人で手を繋ごう 作家名:ポウ