そんな二人で手を繋ごう
4.そんなことに気付かされた
初めての恋だったんだ。何もかも、あいつが初めてだったんだよ。
だからちょっと背伸びとかしてみたりして、らしくねぇよな。
強がって、意地張ってさ、それで疲れて面倒臭くなっちまったら意味ないじゃんか。
あぁ、でもホントこれは予想外だったわ、マジ。
俺はまだ、あいつのことさ―――好きみたい。
勇樹からアナザーの終わりとそこから生まれた各派閥の話を聞いた翌日。
「斎!」と声をかけられて、俺は反射的に後ろを振り返った。
……あ、斎って俺ね。斎圭介。因みに勇樹は俺のことを圭介って呼んでいる。
ということは俺に声をかけてきたのは勇樹ではないわけで、振り返った先にいたのは数人のクラスメートだった。
「おー、はよ」
「はよー。なぁなぁ、昨日のHRで今日修学旅行の班決めるっつってたじゃん?お前もう誰かと班組んでんの?」
「修学旅行?」
ふむ……確かに昨日のHRでそんな話をしていた気がしないでもない。
うちの高校は修学旅行が3年の5月にある。
編入生の俺だが、勇樹という友人がいたおかげが割とすんなりクラスに馴染むことができた。
こいつらは元々勇樹とツルんでいた仲間らしく、後から入って来た俺のことも嫌な顔することなく受け入れてくれた。
編入のことを考えている時は、修学旅行なんてあっても行く気はなかったんだけど。
だって3年間共に過ごしてきた奴らの中に突然ポッと入って仲良く旅行だなんて出来る気がしない。俺平凡だし。
でもこいつらのような友達が出来た今では、結構楽しみにしている行事だったりする。
「まだ誰とも組んでないけど?」
ニヤリと笑うと、向こうもニヤリと笑い返してきた。
「よし、じゃあ夜はお前の輝かしい女性遍歴を洗いざらい吐かせてやるから覚悟しとけ」
「なんで俺だけなんだよ」
女性遍歴なんざねーよ。男性遍歴ならあるけど。ただし1人だけ。まぁ言わないけどね。
こいつらの反応とかそういう以前に、俺はまだあいつとのことを思い出にして話せないのだということを昨日嫌というほど痛感した。
……バカみたいだと思うよ。自分でも、相当。
「勇樹は?」
「勿論あいつも俺達のグループ」
この3人に、勇樹も加わっての修学旅行のグループ。
あいつを思うと懲りずにシクシク痛みだす心もあるけれど、これから2週間後に控えた修学旅行を思う楽しみがそれを忘れさせてくれる気がした。
島でいる時は、忘れられたような気がしてたのに。
「んじゃ、俺ちょっと図書室寄ってくわ」
「ん?おー。じゃあまた教室でなー」
教室へと向かう二人と別れて、俺はもう一階分階段を上った。
俺達のクラスは東棟の2階。そして今俺が向かっている場所、東棟の3階は、所謂特別教室が集められている。
階段を上り切り左に曲がって、突き当りが目当ての図書室だ。
一年間の島生活で多少良くなった頭。しかしそれは学習という意味でだけではない。
暇すぎる生活は、それまで俺が全く手を出さなかった本というものに目を向けさせた。
父さんは絵描きだが、趣味で小説や詩を書くこともあった。だがそれはあくまで趣味で、それをどこかに出したり見せたりということはしていないみたいなのだが。
最初は暇つぶしだった。父さんが書き綴っていた小説を読ませて貰ったのがきっかけだ。
書き手としてどれくらいのレベルなのか、プロの目から見ての評価はどうなのか知らない。
だが俺の目から見てその小説は面白かった。つい読み入ってしまって気付けば辺りが暗くなっているほどに。
それからまず父さんにインターネットに掲載されているアマチュアの人の書いたオススメ小説を教えてもらった。
親子だから趣味が似ているのだろうか。紹介された小説はどれも面白く、俺は文字に飽きるどころかどんどん引き込まれた。
次に家の中にあった、紙の本を読みだした。
実は昔から本というのは苦手だった。いや、苦手意識があった、というべきか。
だがここ数カ月ですっかり文字を追うことに慣れた目は、その媒体が紙に変わっても問題はなかったようだ。
初めて歴史物の長編小説を全て読み終えた時は、内容とは別に読み終えたことに対して感動を覚えたほどだった。
そんな経緯から、俺は今でも暇さえあれば本を読んでいる。
私立であるこの学校は図書室も中々広くて、俺のお気に入りの場所の一つだ。
―――そして本のこととは別に、もう一つ楽しみもある。
カラカラと小さく音を立てて引き戸を引くと、すぐ目の前に貸出のカウンター。
そしてそこには、1人の男子生徒が座って本を読んでいた。
作品名:そんな二人で手を繋ごう 作家名:ポウ