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鎮魂

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 あんなに地面て揺れるのね。
 おさまってからも、体が凍ったみたいに動かなくて、ばばちゃんにずっとしがみついてたの。
 おっかなすぎて、涙も出なかったわ。

「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ。だいじょうぶだからね」

 ずっと、かかちゃんが、いってくれてたけど、大丈夫なのか分からなかった。
 まわりのおじちゃんもおばちゃんも、みんな出てきて話を始めたんだよ。
 家にラジオがあったんだけど、家の中は、たんすに通せんぼされて、入れなくって、誰かが持ってきてくれた。

 かかちゃんが、わけが分からないくらいにぐちゃぐちゃになったお家の中に入って、何かを探してた。ばばちゃんが、靴を持ってきてくれたけど、玄関にはいけなくて、ととちゃんのサンダルで、がばがばしてたの。なんだか、可笑しかった。

 弟が泣き出したから、ミルクを上げようと思ったのかもしれない。
 おむつかも。

 みんな、海を見てた。
 風の音と、人のヒソヒソ声と。
 それしか聞こえなくて、すごく静かだった。
 
 防災無線は、壊れて使えないって、町内会長さんがマイクみたいなものを持ってお知らせにきてくれた。
 それと、高台に避難するようにって。

 かかちゃんのほうを見たら、家の中からいろんなものを引っ張り出そうとしてた。手伝おうと思ったら、叱られちゃったの。
 こういうとき、小さいとつまらないのよね。
 ばばちゃんも、かかちゃんのお手伝いしてるし。

 でもね。
 いいこともあるのよ。
 
 かわいい弟を抱っこしてていいって言われたの。
 手がしびれたけど、弟はあったかいし、すごくかわいいから、がまんする!

作品名:鎮魂 作家名:紅絹