母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~
――菜緒を田丸さんの所へ里子に出してから、すでに一ヶ月になろうとしていた。本当ならもう退院する予定だったのに……。私の身体が相当無理をしていたために、心臓が腫れているとかの理由で手術ができない状態だった。そのため予定の入院期間が一ヵ月も延びてしまった。私は田丸さんへすぐに連絡し、もう一ヵ月面倒を見て貰いたいとお願いした。田丸さんは快諾して下さった。しかし菜緒に会えない期間が増えた。私は、菜緒が私のことを忘れてしまうんじゃないかと不安になった。だからその不安を消すために頻繁に電話を入れた。
入院して一ヵ月半が経った頃、ようやく手術日が決まった。
ちょうどそれと時を同じくして、一人の男性がはるばる横須賀から見舞いに来てくれた。彼――徹(とおる)さんは、私の最初の主人の弟の、仕事関係の仲間である。
私たちはその弟の紹介で、私が入院する少し前から文通をしていた。
実は以前、奈緒の父親の典くんと別れてしばらく経った頃、その弟からも求婚されたことがあったが、やはり生き別れの主人の弟ということで、どうしても受け入れられなかったのだ。その弟曰く、
「俺よりいい男なら、この人しかいないから!」と言って、紹介されたのだった。
入院する前にも二、三度私を訪ねて来てくれて、菜緒を伴って一緒に遊びに行ったこともあった。人見知りをしない菜緒はすぐになついて楽しそうにしていた。しかしその時は実家に訪ねて来たので、父はとても不機嫌だった。
今回入院したとは言え、まだそんなにお互いのことを知らない状況だったから、遠いのにわざわざ来てくれなくても……と、内心私は思っていたが、彼はいとわず飛行機に乗って来てくれた。
その日は私が数時間分の外出許可をもらって外へ出て、喫茶店で彼と話をした。
近々手術が決まったことを告げたその帰りの、駅へ送って行く道すがら、歩いていた足をいきなり止め、振り返ると私の方へ向いて突然の言葉を放った。
「結婚して下さい」
私は一瞬呆気にとられ、その言葉の意味を認識しても返事ができないでいた。
「返事は今すぐでなくてもいいから……」
私がすぐに返事ができないと察してくれたようだった。その後、徹さんを駅まで送って病院へ戻ってから、改めて徹さんのことを考えてみた。
作品名:母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~ 作家名:ゆうか♪