母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~
その頃の、うちでの食事で最も多かったのが玉子ご飯だったのだ。暖かいご飯の上に、少し醤油を入れて混ぜた溶き玉子をかけて食べる。そして、それのみって事がざらだった。だから玉子が一パックあれば、十回ご飯を食べることができた。菜緒は幸い玉子ご飯が大好きだったし、あんまり我儘を言う子でもなかったので、考えてみると本当に親孝行な娘だった。
いつだったか、一緒に近所のスーパーにお買い物に行った時のこと。いつもなら必要なものだけ買ったらさっさと帰るのだけど、その日は、たまには菜緒に新しい服の一枚でも買ってあげたい――そう思って、菜緒の手を引いて子供服売り場に行ってみた。色々見ていると一枚とっても可愛いジャンパースカートがあった。優しいうぐいす色の地に黒のチェックが入っていて、ハイウエストの切り替えの下は、可愛くギャザーのスカートになっていた。しかも共布でできた可愛くてちっちゃなポシェットまで付いている。値段を見て驚いた。何と五百円!? これなら私にも買ってあげられる。そう思って菜緒に聞いてみた。
「これ買おうかぁ? 可愛いし」
「お母さん、菜緒の服はまだあるから買わなくてもいいよ!」
奈緒の返事がこうだった。まだ二歳の時のことである。私は思わず涙が出そうになった。
菜緒は要らないと言ったけど、滅多に買ってもやれないし、こんなに安くはそうそうないので、私はやっぱり買って帰ることにした。すると菜緒はその後、その服を好んで着ていた。要らないと言ってたのに――いじらしい子だった。
だけど私は、やはりこのままではいけないと思って近くの新聞販売店にアルバイトに行くことにした。仕事は、新聞の間に挟む広告を一セットずつ作っていくことだった。午後の短時間の仕事だったので、保育園のお迎えの時間にも十分に間に合った。ただ金額にしたら僅かなものだったけど、菜緒の大好きなスライスチーズを買ってあげることはできた。菜緒はいつも嬉しそうに、そして美味しそうにそれを食べた。私はそんな時の奈緒の顔を見るのが幸せだった。
作品名:母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~ 作家名:ゆうか♪