母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~
ヤクルトおばさんの仕事は収入こそ少なかったけど、その分時間も短くて、菜緒を保育園に、1人っきりで長く待たせることもなかったし、少しぐらいの熱なら連れて行くこともできた。
ヤクルトの販売所には私たちのお世話をしてくれる人がいて、その人は、私が配達から戻るまでの間ずうーっと、優しく菜緒の面倒をみてくれた。お陰で私は安心して仕事をすることができた。菜緒は人見知りすることもなく、逆に人なつっこいくらいだったので、そういう点は大いに助かったし、皆からも可愛がられた。
典くんとは別れてから一度も会ったことはなかったが、ある日外出から帰ったら裏口に何か荷物が置いてあって、家に持って入って開けてみると、オモチャの赤いピアノが入っていた。
その日は菜緒の満一歳の誕生日だった。メッセージは何もなかったけど、典くんが持って来てくれたんだとすぐに分かった。――菜緒の誕生日だけは覚えてくれてたんだぁ……と思うと、とっても嬉しかった。しかしどこに住んでいるのかはもちろん、連絡先も何も知らなかったのでお礼の言いようもなかった。
それから二、三か月後のこと。人伝てに典くんが再婚したことを聞いた。相手の人には小さな男の子がいる、水商売の人らしい。
「きっと、菜緒ちゃんと別れて彼も淋しかったんだよ」と、教えてくれたその人は言っていた。そうかも知れないと私も思った。私は、自分が母親から捨てられたから、どんな事があっても、自分の娘を捨てるような事だけはしないでいようと決めていた。しかしそれは、菜緒をお父さんのいない子にしてしまった。可哀想なことをしてしまったと思ったが、今更どうしようもない。
ヤクルトの収入と、市から出る母子家庭の補助だけでは、生活はかなり苦しかった。当時菜緒は、スライスチーズが大好きだった。お買い物に行くと、それを買って欲しいと言った。しかし私は、チーズを買うために必要な百九十八円で、玉子一パックを買えることを考えると、なかなか買ってやることができず、自分が親として何て不甲斐ないんだろうと情けなさでいっぱいになった。
作品名:母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~ 作家名:ゆうか♪