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母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~

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 拓斗は感電死だった。就寝前に、自分の胸に電流がタイマーで流れるようにセットし、そして眠っている間に逝ってしまった。彼が毎日のように付けていた日記はあったが遺書はなかった。彼の両親から見せられた彼が綴った日記には、私への愛が溢れていた。

 それからの私は毎日拓斗のことばかり考えて涙した。そして、どうやったら彼に逢えるだろう、と考えた。彼に逢うためには、私自身も死ぬしかない――それが結論だった。できれば彼と同じ方法で死にたかった。その方が確実に拓斗に逢えそうな、そんな気がしたのだ。しかし私には電気のことなど皆目分からない。やむなく感電死を諦めた私は、薬しかないと思った。他には思い浮かばなかった。というか、やはり綺麗に死にたかったのかも知れない。天国で拓斗に逢った時に、少しでも綺麗でいたかった。拓斗はきっと天国にいると信じていたから。

 当時は病院で働いていた私だけど、病院の薬を使おうとはまるっきり考えなかった。だから町中の薬局を何軒も周った。そう、結局五軒くらい周っただろうか。しかしどこへ行っても睡眠薬はなかなか売ってくれなかった。売ってくれるのは、睡眠誘眠剤というものだけだった。仕方なくビン入りのその薬を三本ほど買った。どのくらい飲めば死ねるのか、それすら分からなかったから……。

 拓斗の元へ逝こうと決めた日、いつもの就寝時刻になった時、階下からわざわざコップに水を目いっぱい入れて二階の自室に持って上がった。もちろん父に気付かれない様に注意して。それと、水を入れた洗面器と剃刀を。薬は量的なものが分からないので余りあてにはならないと思い、一応手首を切ることも考えて用意したのだが、初めての経験だったから、いざとなるとどこを切れば良いのかが分からなかった。まだ若くて、運動で日に焼けた肌は黒く、血管がどこにあるのかさえ全く見えなかった。
 一応逝く前に、父のために遺書も用意しておいた。今まで育ててくれた父には、本当に申し訳ないと思っていたが、拓斗のそばに行きたい、もう一度逢いたいと思う気持ちの方が強かった。
 手首を切るのは思った以上に難しかった。用意した剃刀も悪かった。常日頃、私が顔を剃るのに使っていた物で、肌が切れにくい構造になっていたのだった。
剃刀で切るのを諦めた私は、薬を飲めるだけ飲んだ。吐きそうになりながらも水で無理やり流し込んで、やっとの思いで瓶を三本とも空にした。そして眠った。

 次に私が目を覚ましたのは、残念なことに天国ではなく病院のベッドの上だった。