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母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~

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 それから数ヵ月後、私が二十歳になったばかりの正月の五日のことだった。
 会ったこともない人が、朝、我が家にやってきた。そして、玄関に出た私に聞いた。
「圭子さんですか?」
 なぜか思いつめたような目で尋ねる。
「そうですけど……」
「落ち着いて聞いてくださいね」
「……?」
「――拓斗(たくと)くんが自殺しました」
 私は一瞬固まった。――どういう事? 自殺しました。自殺しました。自殺……。
――頭の中でぐるぐるその言葉が回った。そして次に私が口にしたのは、
「――で、具合はどうなんですか?」
 私の頭は完全に拒否反応を起こしていたのだ。
 その人は不思議そうな顔をして返事をしない。
 拓斗は自殺未遂ではなく、自殺したのだ。そのことに気づいた時、私は完全に狂った。突然泣き叫んだのだ。
 その声に驚いて、奥から父が出てきた。事情を知った父は私に着替えるように促し、待っていてくれたその人と共に、私が出掛けるのを見送ってくれた。
 彼の家に向かう車の中でも私の涙は止まらない。
「何故? 何故? なぜ? なぜ……」
 なぜ彼は私に一言の断りもなく、一人きりで逝ってしまったのか?
 今でも忘れられない、正月の五日の朝だった。そのわずか四日後には会う約束だったのに。その日私は、生まれて初めて愛した人を失ったのだった。

 ――彼は拓斗。私より一つ年下の優しい人だった。控えめで、さりげなく私を愛し、大切にしてくれた。
 彼と初めて行ったその年の初詣。十二月三十一日の深夜に近くの初詣の場所〔山〕に出掛けた。寒い夜だった。少しでも暖が取れるようにと、大きな焚き火がいくつも用意してあったが、焚き火の前に立つと、かざす手と頬だけは燃えるように熱くなるのに、背中は寒いのだ。拓斗は自分だって寒いのに、コートを脱いで私に着せてくれた。その優しさが嬉しかった。
 正月の朝、私と拓斗は初めて結ばれた。幸せだった。私はいつだって愛に飢えていたのだから……。一緒になろうと約束していた。
 初詣に行く少し前に父にも紹介した。だが父は、年下だということと、中卒だということで反対した。拓斗は、彼の両親が年老いてからできた一人っ子だった。
 彼の家は貧しかったから、ほとんど親というより祖父母とも思えるような親に、負担を掛けないために、高校へは行かず中卒で整備士の仕事をしていた。
 私の父は自動車学校の指導員をしていたが、同時に整備士でもあったから、拓斗の仕事が父と同じなのが、ただ嬉しかった。それなのに……初詣の日からわずか四日後には、彼は見えない世界へと逝ってしまった。
 拓斗の葬儀の間中ずっと私は泣いていた。何も考えられないのだ。なのに涙だけは止めどなく流れてくる。拓斗の死を受け入れたくないという思いと、受け入れざるを得ない状況とが私を苦しめた。
 一緒に初詣に行った時、私の父が二人の交際を反対していることを、彼はとても気にしていた。そして私の成人式の着物が、思いのほか高価だと感じたことも……。