12ピースのパズル
彼女の部屋の境に洗濯物が並んでいる。
梅雨入りした途端、雨の日が増えた。
そのせいで、洗濯物が思うように乾かないのだ。
「もう、新しいのを買って捨てちゃおうかしら」
小さく丸まった下着を広げながら、ぶつぶつ呟く。
「もう!着るから洗濯しなくちゃいけないのよ。裸で過ごしちゃおうかしら!」
雨の日の出勤は、電車に乗るのもうっとうしい。
会社について仕事をしていると、次第に濡れた足が冷えてくるようだ。
後輩の女性が、ちょっとした間違いをした。
申し訳なさそうに彼女に頼みに来た。
間違いの説明をして、その処理を彼女は代わりに対処した。
ふと、彼女の鼻に雨のにおい、雨に濡れた繊維のにおいがした。
顔を上げると、スーツの肩を濡らした営業の男性社員が立っていた。
「おつかれさまです」
「うん、土砂降りのときに帰って来ちゃったからね」
彼女がタオル地のハンカチを出そうとしたときだった。
「使いますか?」と隣の女性社員がタオルを差し出した。
「あ、ありがとう。あ、でもいいよ。ハンカチ持ってるから」
営業の男性社員は、ポケットからアイロンのかかったハンカチで肩を拭った。
(出さなくて良かった。恥かくところだったわ)
「それ、僕の担当のところのだよね」
「あ、ああそうです。データが違っていたようで直していますから」
「直していますから…で?」
「あ、すみません」
(どうして私が謝らなきゃいけないのよ。私は直しているのよ。コレはあの子が…)
「後輩のミスまで面倒みられるようになったんだ。もうベテランだね」
「どうも…ありが・・・」
「ねえ、連絡、メモない」
営業の男性社員は、ペンを持つように小刻みに動かしながらメモ紙の催促をした。
彼女の差し出した紙切れに書き込むと、「じゃあ、コレ頼むよ」と机の上に伏せて置いた。
(また、面倒…)
手に取って、はっとした。
『食事しないか。080-XXXX-XXXX 』
(からかってるのかしら。それとも…んーなんなの?)
彼女は、仕事をした。なんだかもやもやしたあやふやな気分を消したかった。
帰り頃は、雨は上がっていた。
貰ったメモをバッグの脇ポケットにしまったまま、家路につく。
いつも買い物する店で食品と弁当を買って部屋に帰った。
メモを店で捨てようと思った。でもできなかった。
メモをテーブルの上に置いて弁当を食べ始めた。
(付き合いたいの?それとも仕事のお礼?ふたり?大勢?)
「う!何コレ?もうバランまで食べちゃった。もうやだぁ」
(社内恋愛なんてしないもん。うまくいけばいいけど、哀しくなるのは女だもん)
まだひとつもピースのはめられていないフォトフレームを見つめた。
洗濯物の柔軟剤の甘い香りが鼻に香った。