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12ピースのパズル

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毎日、暑い日が続く。
通勤の電車の聞かない冷房に苛立ちながら、少しは涼しいオフィスへと向かう。
あの営業の男性社員も汗をかいているだろうか。
ふと、気持ちの中に横切る。
携帯電話のアドレス帳に登録をした番号にかけてみようか。
(なんて?)
営業から戻った男性社員が事務所に入って来た。
汗はかいていないくらいすっきりした様子。
「今日は暑いですねー。今日は部長と一緒だったから車で回れて良かったー」
先輩社員と話している。羨ましかった。
(え、私…ヤキモチ妬いてるの?)
その男性社員と目が合ったような気がした。
昼の休憩。
彼女は、電話をかけた。
(どうして、メアドじゃないの?ドキドキするじゃない…出るの?出ないの?)
「はい」
「あ、あの私…」
「何?」
「いえ、別に…」
「どうして?」
「何が…」
「別にって電話貰ってもわからない」
「休憩中、ごめんなさい。切ります」
「そう」
彼女は、電話を切った。恥ずかしいのと同時に哀しくなった。
今までの彼女ならきっと怒りが込み上げて「何よ!」と文句の言葉が出ていただろう。
彼女は、社内の食堂へは行かず、近くの喫茶店で休憩時間を過ごした。
午後からの業務が始まるが、気持ちは重いままだ。
顔を合わせるのも嫌だった。
だがそれは、すぐに解消された。また営業に出かけていったとわかった。
午後からは、自分でも分かる間違いを繰り返した。
結局、残業をすることになってしまった。
溜め息混じりに仕事を終えると、席を立った。
事務所にはまだ社員が居たが、あの男性社員はまだ戻っては来なかった。
(会わずに済んで良かった。直帰したのかな)
事務所を出てエレベータのボタンを押した。たまには階段でとそのまま降りて行った。
ハイヒールの踵が階段に響く音。
「おつかれさま」
階段を上がってくるのは、あの男性社員だった。
「あ、エレベー…おつかれさまです」
「あーあ、エレベータが上がって行っちゃったからね」
(わっ、いやみなこと言うんだ)
擦れ違った踊り場で男性社員の声がした。
「そのひと言で階段にして良かったかな…。おつかれさま」
「え?あの…いつかお食事でも行きましょう」
「いいよー。気をつけて帰ってね」
男性社員は、振り向きもせず、重い鞄を提げ、片手を軽く上げると階段を上がっていった。
彼女は、暑い夜の通りを歩いた。僅かに吹く夜風が心地良く感じられた。
家に帰った彼女の腕に赤いマーク。
(あ、痒―い。蚊に刺されたぁー)
塗り薬のひんやりした感覚と鼻に抜けるにおいに夏を感じていた。
作品名:12ピースのパズル 作家名:甜茶