小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

12ピースのパズル

INDEX|8ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

人の流れに混じってホームを歩く。
(どうして、こうも人が多いの?まったく!)
肩がぶつかる。足元に荷物が引っかかる。
改札を押し出されるようにして通り抜ける。
JRの構内に向かう。ふと見上げた表示板。
彼女は、私鉄の改札へと向かった。
(ココから乗れば、次はここって駅の分かっているところには今日は行かない。冒険ね)
彼女は、自分の気持ちを心で話していた。
きっとその顔は、明るく微笑んでいたに違いない。
私鉄も混雑していた。
窓口で指定席の旅券は買えなかった。
自動販売機で、各駅停車のチケットを購入した。
席はもちろん自由。それどころ空いた席は見つからなかった。
入り口付近の手すりに凭れることができただけでも楽だった。
仕事の日もまだ空いている駅から乗るため、立って乗ることはあまりなかった。
ハイヒールのつま先が少し痛かった。
(勢い良く闊歩したからね)
足の痛みもこれからの出来事の序章とばかりに楽しく思えた。
途中からひと席空いたところに座った。つま先がじーんとしていた。
帰省でもするのだろう小さな子をふたり連れた女性が乗り込んできた。
予想もしていなかった暑さに、三人の額の汗を拭う。
手を離せば、子どもが揺れる電車によろめく。
「ここどうぞ。私は暫く座れましたから」
彼女は、その様子に何の迷いもなく席を立った。
横を擦り抜けて、腰を向けてきた恰幅の良い男性に敵意を剥きだしで睨みつけた。
「ああ、座るんだったの」
そう言いながら、こそこそと離れて行った。

彼女は、ある駅で降りた。改札を抜け外に出ると、緑のにおいがした。
(田舎…)
右へ行きかけて、引き戻り左へ進んだ。別に理由はない。
ぶらぶらと歩いた。荷物さえなければ、もっと楽しいだろう。
お腹も空いてきた。宿泊のホテルも探したい。
携帯電話で、ホテルをあたるが何処も塞がっていた。
(どうしよう…)
何処かで食事をしながら尋ねることにした。
「お嬢さん、観光ですか?」
店の気の良い奥さんが聞いた。
「ええ、ひとりでふらっと。でも泊まるところが決まってなくて」
「うちで良かったら。でも綺麗なお嬢さんが泊まるような宿ではないかしらね。えっと…」
「こちらで泊まれるのですか?」
「これでも『食事処・宿屋 ぶらり』って店だからね。あはは」
彼女は、そこで2日滞在した。
誰にも連絡をせず、届いたメールにも返信せず、知らないところで過ごす。
宿から出かけて戻ると奥さんの明るい声が心地良かった。
「また気が向いたら、来て下さいね」
「はい。お世話になりました。ありがとうございました」
彼女は、住みなれた町に帰る。自分のモノが溢れる部屋に帰った。
「ただいま」
少しだけ、新鮮な気持ちを連れて。
作品名:12ピースのパズル 作家名:甜茶