小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

12ピースのパズル

INDEX|6ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

この春、三人の新入社員が配属された。
先月退社した事務員さんの欠員にこの部署にも一人女性が入って来た。
彼女は、その女性に仕事を教えることになった。
今までは、彼女の仕事を事務員さんがフォローをしていてくれたのだが、
今度は、彼女が新人も見ながら、仕事をしなくてはならなくなった。
自分の仕事がなかなか進まず、残業する日もあった。
部屋に帰っても、ごろんとベッドに転がり、そのまま朝になることもあった。
知らず知らずのうちに、苛立ちを彼女に向けてしまう。
ある日、上司から呼ばれた。
もう少し、教え方を和らげられないかというものだった。
彼女は、上司に反感を抱いた。悔しかった。
(どうして私が叱られるの?覚えないあの子が悪いんじゃない!)
給湯室で涙が零れた。
「どうした!弱音(ね)を上げてるの」
ふと厳しい先輩社員が横に居た。
頬を急いで拭う彼女に先輩社員が紙コップのコーヒーを差し出した。
「みんな順番よ。私も誰かの時、大変だったもの。まっ、いい経験と思って頑張んなさい」
意外な言葉だった。

覚えが悪いと叱られてばかりの毎日。
もちろん涙も込み上げた。でもそんな時でも厳しかった先輩。
『泣いてちゃ書類が汚れるわ。それにきちんと聞けないでしょ!聞けないと覚わらない』
『覚わらなきゃミスをする。ミスばかりじゃ仕事にならないでしょ……』
次々に言葉が圧し掛かった。
でも、最後に『やっと助かるようになったわ』と言われた。
その意味を今まで彼女は誤解していた。
……もう面倒をみなくてよくなったわ……と思っていたと。
……自分を助けてくれる、一緒に仕事ができるようになったわね……だったことに。

次の日から彼女は少しだけ変わった。
わかりにくいところは、メモを取るのを待ってあげることもした。
もちろん、その間イライラとはしたが、先輩社員の顔をちらりと見ては我慢した。
まだ間違いは起こす。
でもそれに気付けるようになった。修正を手伝う。
彼女も間違えた。自らの間違いを後輩にも伝えた。
後輩は頷いて聞いていた。

ある日、営業の社員が事務所に入ってくるとまっすぐ上司に報告に行った。
後輩が、上司に呼ばれた。
後輩に仕事を頼んだらしく、その件について何か言われるのだろう。
その様子を何となく心配で目で追っていた。
後輩が何度も頷いているが、背中しか見えず、表情がわからない。
振り返った後輩は、唇を引き締め、彼女の横を通り過ぎる。
目を微笑むように細め、軽く頭を下げて通った。褒められた様子。
彼女は、自分のことのように気持ちが軽くなった。
ふと、目の合った先輩社員が軽く握った拳に親指を立てて見せた。
彼女は、肩を少しすぼめ、頭を傾げた。

その夜、部屋に帰った彼女は、パズルのピースをひとつ眺めながら溜め息をついた。
フォトフレームにははめず、ベッド脇の台に一緒に置いたまま眠った。
作品名:12ピースのパズル 作家名:甜茶