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12ピースのパズル

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彼女の会社では、節分の日に豆を撒く。
とはいっても機械が多いため、十数粒入りの小袋に入ったものを投げるのだ。
今年の当番は、年男の上司だ。
「さて、始めるぞー。用意はいいか!」
「はい。準備OKです」
盛り上げ上手な社員が声を上げた。
彼女はこの騒がしいだけの行事を何となくうっとうしく感じていた。
「ではよろしく!鬼はー外!福はー内!」
キャアーキャアーと当てられる豆袋に年配の事務員さんらが、付き合いで声を上げる。
(本当に楽しんでいるのかしら。可笑しいの…。滑稽だわ)と去年の彼女は思っていた。
みんなが一斉に拾い始めた。
「貴女も取らないと今年の福が来ないわよ」
そうにっこりといつもは厳しい先輩社員が声を掛けてきた。
「あ、はい」
彼女は、素直に返事を返すと目の前に落ちてきた豆袋に手を伸ばした。
「あ」
「あ、わるい」
二本の手がその豆袋に伸びたのだが、彼女の手のほうが先に触れていたようだ。
「どうぞ」
「いや、私の方が遅かったね。君の分だ」
男性社員は、彼女にそれを手渡すと、机の隙間に見つけた豆袋を拾い彼女に見せた。
「大丈夫。私も手に入れた」
彼女は、(良かったですね)と目で伝えるように微笑んだ。
席に戻った彼女は、他の社員がしているように小袋を開け、豆を食べ始めた。
去年の彼女なら、そのまま持ち帰るか、化粧室脇のゴミ箱に捨てていただろう。
「あれ、どうした?」
「え?」
「いえ、貴女が食べているなんて、初めてじゃない?」
「そうですか…。けっこう美味しいですね」
「そうでしょ。きっと今年はいいことあるかもしれないわね。私は三個獲得したわ」
「まあ。凄い」
「そんな遠慮じゃ、ダメよ。強く生き残らなくちゃ…ね」
年配の事務員さんは、そう言いながらまだ探しながら離れて行った。
業務をし始めて彼女は口の中に違和感を感じた。
さきほど食べた豆の皮が歯の隙間に入り込んでいるようだ。
舌先でもぞもぞと探るが なかなか取れない。
「どうした?」
横を通った(豆を取り合った)男性社員がぼそりと言った。
「僕もひっかかったよ。さっき取れた」
彼女は、恥ずかしく、頬をひきしめそっぽ向いた。
まだ取れない豆をもぞもぞ……(あ、取れた)
歯で噛みしめると、また香ばしい豆の味が口に広がった。
彼女は、口元を緩め、ふと微笑んだ。
はっと、周りを見回す。誰も見ていなかったようだ。
彼女は、何事もなかったようにまた仕事を始めた。

この月もフォトフレームにはパズルのピースははまらなかった。
作品名:12ピースのパズル 作家名:甜茶