小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

12ピースのパズル

INDEX|3ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 
 
新年を迎えた。
彼女は、友人二人と晴れ着姿で、初詣に出かけた。
神殿に向かい賽銭を投げ、手を合わせる。
何を祈願するわけでもなく、ただ行列に流れて過ぎただけだった。
帰り道、立ち寄った喫茶店でクリスマスの夜の事を話した。
「嘘!?惚気話を聞かされる覚悟で来たのに。酷―い」とひとり。
「でも、少しわかるかも、彼の言ったこと。いいじゃん、いい女になってみたら」とも。
彼女も、年末までぼんやりしていたが、どこか吹っ切れた気がしていた。
「でもさ、感動したことってなんだろうね。素敵な映画を見たとか?」
「そうね。感動ってその人その人で違うものだし、初詣の人ごみだって感動したもん」
友人の二人は、一生懸命に考えたが、彼女には何も浮かばなかった。

部屋に戻り帯を解く。痞えていたものが取れた気がした。
あれほど時間をかけて着付けてもらったのに 脱ぐ時はほんの僅かな手間だった。
「何だか疲れた。楽しかったのは、出かけるまでね」
誰と話すわけでもなく言葉を投げ捨てた。

数日後、年末年始の休みも終わり、仕事を始めた。
毎日が流れていく。
変わったといえば、彼からの連絡が届かないこと。
忙しい時には、そういうこともあったため、それほど気になることではなかった。
新しくした手帳を開いた。
月半ばだが、ほとんど白く書き込みといえば、『残業』『食事』とひと言で書かれた愚痴のようなコメント。
何処に感動の二文字が入るというのだろう。
週末の朝、目覚めた彼女は、トイレに立ったついでに携帯電話を手に取り、
アドレス帳から彼の名を探した。
まだ指が覚えている。発信まで一気に指は動いた。
耳に届いた呼び出し音に、はっとした。
「ふん、なにさ。きっと掛けてくるわ」
彼女は、携帯電話をベッドの上に投げた。
しかし月末が近づくにつれ、彼女の気持ちは落ち着かなくなってきた。
「どうして私がこんな思いをしなくちゃいけないの……」
ふとローチェストの上の小物入れのガラスディッシュが目にとまった。
少し埃も入っている。
ダスターで回りは掃除してあるが、それはそのままだったようだ。
昨年の誕生日のプレゼントのブレスレットがひと塊に底に丸まっていた。
指先で摘み上げ眺めた彼女の唇の端が上がった。
「こんなに綺麗だったんだ…」
貰った時の感動など思い出しようにも感じていなかった。
朝陽にブレスレットが煌めいた。
彼女は唇が震え、片頬に暖かく涙が伝った。
作品名:12ピースのパズル 作家名:甜茶