12ピースのパズル
街を歩けば、イルミネーションに飾られた並木。
公園広場には、大きなクリスマスツリーが登場した。
季節は巡り、彼の事をまた思い出す。
パズルの箱にフォトフレームにはめることのなかったガラスディッシュの小物入れに
入れたピースも入れた。
『期限は今度のクリスマスイブ』
携帯電話が鳴った。
見覚えはあるものの登録の無い電話番号。
「はい」
相手は、あのレストランのオーナーだった。
彼の代わりにかけてきたらしい。
「わかりました。ありがとうございます。お世話かけました」
電話を切った彼女は溜め息をついた。
「どうして自分で連絡して来ないのかしら。こんな電話貰ったら行かなきゃいけない
じゃない」
彼女は、ひとりのときも 仕事をしながらも 何と言おうかばかり考えていた。
(どうせ、彼から別れを告げられたのだもの、会ってどうなるというの)
ベッドに入ってぼんやり天井を眺めながら、眠れない時間を送っていた。
携帯電話が鳴った。
結婚している友人からだ。
「もしもし、元気?」
「ええ、元気よ」
「うそ。そんな声してないわよ。」
「今、寝るところだったから。それよりどうしたの?旦那さんと喧嘩でもした?」
「するわけないでしょ。それどころか仲良しで来年は、もうひとりのママになるわ」
「わあ、それはおめでとう。もうみんな知っているの?」
「そんなことは今はいいの。もう本題ずばっと聞くけど」
「本題?」
「そう。素敵な恋人修行はどうなったの?ひょっとしてまだ何も出来ていないんじゃ
ないかって心配になってね」
「心配って」
「気になることがあると胎教に悪いのよ。で、どうなの?」
「正解。ひとつもはめられてないわ。できたわよーってすればいいのよ」
「本当に?そんなことができるの?」
「いいの、もう…。このパズルこのまま返すわ。私では駄目ねって」
「あんなに仲良かったのに。もう駄目なの?謝っちゃうとか」
「謝る?何を?私悪いことしてない…と思うわ。振られたのはこちらよ」
「そっか。でも会うんでしょ」
「ええ。店のオーナーから連絡があったわ。本人は話すのも嫌みたいだし」
「ふーん」
「クリスマスカードだっていいじゃない。メールだって」
電話の友人は、沈黙だ。
「ねえ、もしもし聞いてる?」
「…ねえ、それって彼の優しいところじゃないの?」
「ど、どこが?どうして?」
「だって、メールでも、ましてやいつもみたいなお洒落なカードを送られたら、
残っちゃうでしょ。貴女がもし心変わりしていたら邪魔になると思ったんじゃないの?」
「そんなこと思うかしら」
「んー変わんないなぁー。もうあと三年は無理ね。お馬鹿さん」
「何よそれ!」
「でも、あと何日、五日か。よく考えなさい。そのパズルが出来ていなくてもね」
「わかっているわよ。…でもありがとう。体調気をつけてね」
「はいよ。じゃあね、おやすみ」
「おやすみ」