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12ピースのパズル

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紅葉した街路樹が一枚また一枚と風に舞散ってゆく。
あの男性社員とは、あの日以来、ふたりで会うことはしていない。
事務所内では、仕事のことで何度となく、話はしていた。
やはり、その言葉は優しく、聞くたび心は揺れる。
哀しくて揺れるのではない。むしろ彼女自身の気持ちが楽しく嬉しい感情になるのだ。
自分ではない誰かを愛している人なのに話せることが嬉しい。

「じゃあ、これも頼んでいいかな」
「はい。じゃあできましたら机に置いておきます」
「じゃあ、営業行ってきまーす」
男性社員が事務所を出て行くと、隣の席のこが彼女にぼそりと言った。
「あーあ、またいい男が捕まってゆく。彼、来春結婚するんだって」
「そうなの」
「そ。誰か私に捕まりたいっていう男はいないかしら…はあ仕事だけね」
椅子を戻し、仕事を始めた女性に彼女は微笑み、仕事を続けた。

仕事を終え、会社を出ると日の暮れるのは早く、すでに暗くなっていた。
帰り道、いつも通りに駅へと向かう。
男性に誘われて、寄り道したことが何となく思い出された。
(いいわ。また明日になれば会えるんですもの。私が仕事を続ける限り…)
夕暮れの風が冷たく耳元をかすめてゆく。
コートの衿を直し、スカーフを整える。
彼女は珍しく寄り道をすることにした。
(さて……どこへ行こうかしら…どこへ…)
彼女は、足を止めてしまった。
(私……)
急に不安が襲う。何も決められない自分が何かに押し潰されるように感じた。
落とした視線がアスファルトをうろつく。
彼女は、歩き出し一軒の店に辿りついた。
扉を開けると木目の床が暖かく感じた。店内に微笑むウエイター。
コートを預けると席に案内され、メニューが差し出された。
「久し振りのご来店ですね」
ウエイターに代わり、オーナーの男性が席にやってきた。
「本日は、お待ち合わせですか?」
「こんばんは。いえ今日は、私だけです」
おやっとした顔をしたオーナーだったが、笑みを浮かべた。
「では、今夜のお勧めでいかがでしょう」
「ええ」
「どうぞごゆっくり」
彼女は、大きな安らぎを感じた。
こんな安らぎを感じられる場所があるのも彼の…彼のおかげと思った。
何を食べても美味しかった。身に染みるように喉を通る味わいを楽しんだ。
向かい側に誰もいない寂しさを除いて……。
「ご馳走さま」
「また、ご一緒にお越ください」
「…ええ」
「ありがとうございました」
彼女は、店を出ると再び冷たい風を感じながら部屋へと帰って行った。
作品名:12ピースのパズル 作家名:甜茶