不倫ホテル
あくる日、紗枝子から電話がかかってきた。よかったら夕方から百地にあるドームの横のホテルで食事をしないかと誘われた。
断るどころか僕は逢いたかった。あの唇が目の前に思い浮かんだ。
店のことは従業員に任せて、夕方の混む道をホテルまで車を走らせた。
ホテルの周りはドームで開催される野球の為、車と人で一杯だった。やっとのことで駐車場に車を入れると約束のホテルのフロントに、階段を昇り小走りで駆けつけた。
紗枝子はうちで買ったワンピースを着て待っていた。
「ごめん、ごめん、遅れた・・」
「遅かったじゃない・・」と言うと、怒ってるような怒ってないような、ちょっと嫌な顔で僕を見た。それから時計を見て、
「ちょっとついて来てくれる・・」と言った。不機嫌なのだろうか、僕はしまったと思った。
早足で歩く彼女の後ろからついて行くと、エレベーターの前で止まった。今から階上に上がるのだろう。ひとつのエレベーターがチンと音を鳴らして開いた。
先に乗った彼女は最上階に近い数字を押した。レストランはもっと上の階なのだが・・。
街を見下ろしながら僕達二人を乗せたエレベーターは速いスピードで紗枝子が押した階に止まった。客室のフロアーだった。僕は何も言わず彼女の後についた。
エレベーターを降りて長い廊下を歩くと左側の客室の前で止まった。そしてカードキーを差し込むとガチャリとドアは開いた。
暗い部屋はカーテンが閉ざされていた。紗枝子は照明用のボックスにカードキーを差し込むと
足早に窓の方に歩き、カーテンを全開にした。
広い大きな窓からは海とデザインされたビジネスビルとタワーが目に飛び込んできた。
部屋は西側を向いているのだろう、西日がサァーッとまぶしいくらい差し込んできた。
夕陽のせいか部屋が少し赤っぽくなった。
最上階に近いこの部屋に来たのは初めてだった。スィートルームだろうか、どれも高級なインテリアだった。右奥には海に突き出た全面ガラス張りのジャグジーの浴槽が見えた。
三角形の先端から見る海の向こうに陽が落ちようとしていた。
「すげぇ~~最高の景色だ」僕は素直に驚いた。
そしてこれから起こるであろう事を少し予想した。
「間に合ったわ。夕陽が落ちる前に優をここに連れて来たかったの」そう言うと
紗枝子はこの間、車の中で豹変した時と同じように僕に抱きついてきた。