不倫ホテル
送り迎えはお酒を飲まない彼女がしてくれた。
ベンツの助手席に座って、女性が運転するのを見ると「つばめ」になったかのようだった。
気持ちのいい酔いと、ちょっと美しい年上の女性に優しくされて僕は幸せだった。
彼女は大きなビルの駐車場に車を入れた。
「どうしたの、こんな所で」僕は聞いた。
「うん、ちょっとね・・・」彼女は細いブルガリの時計を見て時間を気にしていた。
何があるかわからないけど、酔った僕は車の音楽が気持ちよかった。
午後9時を車内の時計が指したとき、紗枝子は僕に抱きついて来た。
「エッ、どうしたんですか・・・紗枝さん・・」
彼女は何も言わず、覆いかぶさるようにしてキスをしてきた。
先ほどの上品さとは急激な変わり様だ。驚きながらも僕は彼女が入れてくる舌を吸い込み、絡ませながらキスに答えた。いきなりの熱烈なキスだった。一息をつくと僕は
「こんなとこでいきなり・・人に見られますよ」と言った。
「いいの・・見られても・・・あぁ~優~~いっぱいキスして」
別人のように彼女は妖艶になった。
それから、お互いむさぼるようにキスをしあった。
それはせき止めていたダムの水が一気に放出されたようだった。少しの愛情は持ち合わせていたが、体の奥から湧き上がる情欲には不倫という言葉さえどこかに消えうせていた。
僕の右手は彼女の胸を鷲づかみにしていた。
「痛ぁい・・」そんな言葉さえ「もっと・・・」と聞こえるほどだった。
夢中になっていた時、突然どこからかクラクションが短くなった。
はっと僕は我に帰った。
「ほら、見られてるよ・・紗枝さん・・」
「・・・・」彼女は呼吸を整えるかのように下を向いていた。
静かな沈黙が流れた。
「ごめんなさい・・急に・・・」先ほどとはまた別人のような悲しい顔だった。
笑い顔の向こうに、いつも少し暗い影を持っていた。それがなんだかわからなかった。