不倫ホテル
彼女は、1週間ほどして今度は一人でベンツに乗ってやってきた。
また10万円くらいの服をまとめて買って行ってくれた。ついつい、どのお客様より大事に扱った。
そして「コーヒーでも飲みに行きません?」と言われて断ることも出来なかった。いや、断るどころか彼女の誘いに喜んだのは僕の方だった。
「ちょっと店空けるから」と従業員に言って、僕は彼女の白いベンツに乗った。
海沿いの店が並ぶ、小奇麗なカフェに入り、僕たちは身辺のことを話した。
僕は離婚して1年も経っていなく子供もいない事や、今、彼女もいない事を。
彼女は結婚しているが、夫婦仲が悪く、今は実家に帰って来ている事を。
驚いたのは僕より7つも年上だったことだった。全然そんな風に見えないと言うと喜んでいた。
それから紗枝子は3日とあけずにお店に買いに来てくれた。
5回目の来店の時だったか、夜の食事に誘われた。
「ねえ、下の名前はなんて云うの?」彼女が聞いてきた。
「あっ、はい優次です」
「ゆうって、優しいと書くの?」
「はい、優しいに次ぎって書きます」
「ねえ・・優って呼んでもいい?」上目使いで、色っぽく言われたら断れる筈もなかった。
「僕はなんと呼んだら?」それまではあの~とか苗字で呼んでいた。
「さえこって言うの。勝手に呼んでもいいわよ」彼女は面白そうに笑った。
「じゃ~、紗枝さんで・・」
「ふふっ・・いいわよ」とても年上とは思えないほど可愛く彼女は笑った。
年齢は話をする上で関係なかった。僕達は急速に仲良くなった。
彼女の上品な色気と時折悲しい顔をするギャップが魅力的だった。
何か陰を持った女性というのは、光を対称的に輝かせるアンバランスな不思議な魅力を持っている。彼女の悲しさの秘密をまだ僕は知ることが出来なかった。
「もし、優が私を好きになったら不倫になるわよ・・どうする~?」
意地悪く紗枝子は言った。
「初めての不倫です。よろしくお願いしますと言おうかな」
「くくっ・・お願いしますと言われても・・・」
「お姉さんにまかせます」
「きゃ・・やだ・・不倫の手ほどきしてるみたいじゃない」
僕はこの時、きっとこの人と不倫関係になるなと思っていた。予感がしていた。それは彼女の笑顔に引きずり込まれる僕がいたからだ。僕は彼女の魅力に惹かれていった。