不倫ホテル
その日の電話の声は、以前、紗枝子が持っていた暗い声だった。
様子がいつもと違うのは電話の語り口から分かった。嫌な胸騒ぎがした。
いつもの部屋で待っていると言う。
僕は重い気分を振り払いながら、赤い部屋に向かった。
部屋に入るなり、紗枝子は最初に会った頃の様にきつくキスを求めてきた。
キスの仕方だけで心に何かあったかわかった。
「どうした・・」
「優、優、ずっと抱きしめて・・・きつく抱きしめて・・・」
いつもとやはり様子が違ってた。
「紗枝さん・・・どうしたの・・いつもとちがう・・」
「優・・・優・・・」声にならない声で搾り出すように僕の名を呼んだ。
それから紗枝子はせかせるように僕の服を剥ぎ取ると、自分も裸になり積極的に求めてきた。
激しい落雷のような愛の交わりを経験した。
明日の命はないと言われた場合、好きな人とこれが最後だと言われた場合、もしかしたら人はこんなセックスをするのかもしれない。事実、紗枝子は「これが最後だ」と言われていた。
今日も赤い部屋だった。偶然にも僕達がこの部屋に来る時は夕陽がちゃんと演出してくれた。
紗枝子が天気予報を見ながら予約するのかは分からないが、いつも夕陽が部屋の中を怪しく色を映し込んでいた。
僕も紗枝子の熱情に同調するかのように燃えた。これが最後のような気がした。だから燃えた。
二人で頂上にたどり着いた後は、気が抜けたように静かになった。
それから紗枝子は話し始めた。
「優、私、これ以上、優といると本気で好きになってしまいそう・・。ごめんね。もう終わりにしよう・・」
僕は何も言わなかった。
外は暗くなり電気をつけない僕らの部屋は街の夜景の中に浮いているようだった。
「正直に言うね。私、今の旦那の事愛してるの・・だから、あなたと寝たの」
僕は彼女の言っている意味が分からなかった。