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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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妖狐

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「おじさん。楽しかったならご褒美を頂戴な」
 少女は少し吊り目で黒目がちの円らな瞳をきゅうっと瞑って見せる。
 私はそこで我に返った。
「いや、私はご褒美なんて何も用意していないぞ」
 口から出た言葉は僅かに震えていた。
「そんな筈はないわ。あたしは知ってるもの。おじさんは確かに持っている筈」
 少女の目が更に吊り上る。
 私は狐が人を化かす時には何を奪うのだったかと、いろいろと考えてみた。
 魂を奪うのか、心臓を喰らうのか、或いは尻子玉だったか、等と要らぬ想像が廻りだす。
「嫌ねぇ。尻子玉は河童でしょ」
 声に出してもいない考えに応えられて私は心臓が飛びだす程に驚いた。
「大丈夫よ。別に食べたりしないから。あたしが欲しいのはその背中の袋に入ったちょこれーと。さっきから甘い匂いがぷんぷんしてるわ。隠したってダメよ」
 狐はそうして顔を近づけてくる。いつの間にかその顔は大人の女に変っていた。
 確かに手付かずの板チョコがリュックの中に入っていた。
 チョコレートが欲しいとは変った狐だ、と私は思った。
 充分に楽しませてもらったし、チョコレートくらいくれてやっても良いかとも思ったが、何か腑に落ちないものがあり考えて見た。
 チョコレートは登山用の非常食も兼ねていた。このまま幾日も山から下りられなかったらと考えると、一枚の板チョコと水筒の水は私の命綱とも言えるかも知れない。
 もしかすると狐はそうやって私の体力が失われて行くのを見越しているのではないだろうか。
「いや、チョコレートは駄目だ。何か他の品物ではどうだろう。例えばこの双眼鏡は?」
 私はリュックから安物の双眼鏡を取り出して見せた。
作品名:妖狐 作家名:郷田三郎(G3)