妖狐
やがて狐が歩みを止めると、そこは少しの地面の開けた場所であった。
狐はそこで、最初に見た様にすっくと立ち私をじっと見詰めている。私も狐の目をじっと見詰め返した。
これは暫く動きそうも無い、と私は思い丁度手頃な岩が在ったのでそこに腰掛けた。
すると狐はやっと納得が行ったのか、その場でぐるぐると廻り歩いたと思うとひょんと蜻蛉を切って人間の少女に化けた。
丈の短い赤い着物や髪形は随分と昔の出で立ちの様にも思えたが、ちょこりとお辞儀をする仕草が愛らしく、我知らず笑みさえ浮かべる始末であった。
少女は私の顔をちらと窺うと、手近な石ころを二つ三つ程拾い上げてお手玉を始めた。
はじめは小さく投げていた石を段々と高く放り上げると石はやがて少し大きな赤い玉に変った。
私は思わず手を叩いて笑う。
少女は気を好くしたのか、赤い玉を更に高く放るとその場でくるりとターンしてから見事に赤い玉を捕まえて又宙に投げた。
私が更に歓んで手を叩くと、少女もにっこりと微笑んでから、赤い玉をもう少し高く投げ上げた。
すると、今度は赤い玉は太鼓のバチよりもやや長い程の白い棒に変った。
白い棒がくるくると回転しながら宙を舞う様はいつかテレビで観た事があるサーカスか何かのショーの様であった。
私が感心して観ていると白い棒は黄色い輪になったり、又赤い玉に戻ったり、数が増えたりもして、随分私を楽しませた。
そうして一度に何十個もの玉を放り投げて全て掴み取ると、一瞬の内に両手からは玉が消え、少女は控えめに両手を拡げて私に挨拶をよこした。
私は楽しくなって手が痛くなるほどに拍手を送った。
少女は何度もお辞儀をすると、やがてするすると私に近づいてきて片手を差し出した。