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『3』の欠落

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しかし、お見通しだ。
「嘘だろ、おまえはオフィスレディと三角関係になることを密かに企み、なにをするにも三日坊主、地蔵の顔も三度まで、要は『3』の欠落、罰が当たったと思え」

高見沢はここまで出鱈目に突っ込まれて、ムカッと来たが、とにかく『3』を取り戻したい。ここはサラリーマン的な擦り寄りで、「お地蔵さま、しかと反省しちょりますので、なにとぞよろしく」と殊勝に答えた。

「よし、おまえに『3』を戻してやろう、だが、そのためには今度の日曜日、おまえのアパートへ出張訪問を致す。だから、お供えものとして、『3』に纏わるこれらをたくさん揃えておけ」
お数字地蔵さんはそう浴びせて、高見沢にメモを手渡した。

高見沢がそれに目を通すと、
三鞭酒
苦労和三
三度一致
三鳥ビール とあった。

全部に三が付いていることはわかるが、読めない。
だが、苦労和三はクロワッサンであり、三度一致はサンドイッチ、三鳥ビールはサントリービールのつまらぬオヤジギャグだと容易に想像できた。

しかし、三鞭酒がわからない。
高見沢が首を傾げていると、「それは漢字検定1級のシャンペンじゃ」とおっしゃる。ほうと感心するが、結局はお数字さんを接待するということには変わりはない。だが、ここは忍耐、忍耐。

「それでは日曜日、高級シャンペンをたくさん準備して、お待ちしております」
高見沢はそう恭(うやうや)しく告げて、お数字地蔵さんを後にした。


作品名:『3』の欠落 作家名:鮎風 遊