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『3』の欠落

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そして、一番深刻な人がいた。
彼曰(いわ)く、「円周率がなくなった」と。

「えっ、それって、3.14159のこと? 小数点付きもありってこと?」
高見沢は思わず尋ねてみた。
すると、「そうなんですよ、私の世界の中から円が消えてしまったんですよ」と、今にも泣き出しそうだった。

「そらそうだよな、円周率πの欠落がどんどん進んで行けば、この世に丸いものは成立せず、最終的には太陽も月も、そして地球もなくなるのだから・・・・・・」
高見沢はこんな同情を覚えながら順番を待っていたら、やっと回ってきた。
早速、お数字さんの前へと進み出て、まずは手を合わせた。

すると同時に御影石(みかげいし)風の、つまり白地に黒い斑点の入った、生身のお地蔵さんが・・・・・・、というか、年の頃は高見沢と同年輩のオッサンが白いよだれ掛け姿で現れ出てきた。

「なんだよ、こいつ、目つきが悪く、意地悪そうだな」
高見沢が聞こえないようにブツブツと漏らしていると、「こらっ高見沢、おまえは一郎の『1』だから、今まで『3』を馬鹿にしてきたろ!」と屁理屈捏(こ)ねて、実に偉そうだ。

しかし、このシチュエーションでは、高見沢は弱い立場。
「いえいえ、数字の『3』をこよなく愛しておりまして・・・・・・、石の上にも三年を我が人生の座右の銘とし、日々精進しております」と、精一杯のゴマを擦ってみた。


作品名:『3』の欠落 作家名:鮎風 遊