『3』の欠落
ということは、ゴルフのショートホールでは3打のパーはなくなるし、ミドルホールのバーディーもなくなってしまう。
それに三種盛り刺身も、海鮮三点盛り丼も高見沢の人生から消えてしまう。
えらいこっちゃ!
そして、それ以上に、会社の部内での現在の立ち位置は3番手。これもなくなるということか?
となると、もちろん1番、2番は難しいから、きっと4番手に落ちることだろう。
これは深刻だし、許せない。
さらに、今は辛うじて三流サラリーマン。この地位からもし落ちてしまえば、四流サラリーマンになってしまう。
このようにあれやこれやと思考を巡らせてくると、『3』という数字、高見沢にとってまことに居心地の良い数字なのだ。
さらに分析的熟慮は止まらず、心の奥底に眠る渇望も目覚める。
すなわち、オフィスのマドンナ、せめてユーコちゃんと淫靡で縺れた三角関係に、一度陥ってみたいものだ。そんな願いを密かに抱いていた。
『3』が欠落することにより、そんなドロドロとした三角関係、そんな夢も叶わぬこととなるのか。
そしてここはもう一度冷静に戻り、記憶を辿れば、「今月の3日、俺は一体何をしていたのだろうか?」と。
残念なことだ。完璧に記憶からデリートされてしまっている。
「おっおー、これはかなり重傷だぞ」
高見沢は冷や汗かいて、焦った。
「どうしたら俺は、『3』という数字を・・・・・・奪回できるのだろうか?」