『3』の欠落
高見沢はこんな突拍子もない数字話しに、もう一つ理解できない。
「人から数字が欠落するって、そんなのどこかの三流週刊誌のガセネタだろ」
こんな結論付けをした。しかし、榊原は怯(ひる)まなかった。
「これには実話があってですね、『5』が消えてしまった人がいたのですよ。その人が言ってましたよ、自分の目の前からある日突然『5』の付いた5円玉がなくなってしまったと。だから百均で一つ買えば消費税入れて105円でしょ、これ支払えないのですよ。どうしても2点買って、210円にしないとね、それが不便で堪らないと」
高見沢はこんな榊原のショーモナイ話しに、「5円玉がなくなってしまったって、大した話しじゃないよ。それよりも『1』とか『3』とかがなくなってしまえば、もっと人生面白くなるかもな」と言い放ってしまった。
こんな高見沢の反応に、榊原は不満そうに付け加えた。
「実は数字の欠落って、オヤジギャグまで巻き込んでしまうんですよ、そして、それまでも消滅させてしまうんですよね。例えば、この人の場合は『5円』でしょ、だから・・・・・・『ご縁』までも、どこかへ消えて行ってしまったようですよ」
高見沢はこんな悪乗りの過ぎた話しを聞いて、思わず口に含んでいた高級赤ワインを、じゅんじゅんと焼き上がるステーキにぶっと吹きかけてしまった。
「お味は、まことによろしゅう出来上がりましたようで、どうぞ召し上がれ」
シェフが高見沢の皿に赤ワイン風味のステーキを盛り付けしてくれた。
高見沢はそんなことを思い出しながら、ハタと思い当たったのだ。
「今の俺の状態って、ひょっとすると・・・・・・数字『3』の欠落・・・・・・かな?」
これは大変なことだ。
ここ4、5年、『3』という数字が目の前から消えてしまうのだから。