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『3』の欠落

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単身赴任の殺風景な一室で、高見沢はもう一度「何かがおかしいなあ」と呟き、そして缶ビールを空けた。

そんな時に足に触れるものがある。高見沢はテーブルの下を覗き込んだ。するとそこに葉っぱのようなものが落ちている。

高見沢は「これ、何だろうなあ」と拾い上げてみる。確かに枯れ葉のようなものではあるが、濃い緑色に美しく輝き、ビロードのような触感がある。
そして奇妙なことに、表面に『3』という文字が浮き出ている。

「こんなもの、どこから持ち込んだのだろうなあ?」
高見沢はもう一度目を懲らして見てみた。そこにはやっぱり『3』の文字がある。

『3』? 『3』? 『3』?
これって、なんの『3』?

そんな珍奇な思考の最中だった。
部下の榊原が話していたことを思い出した。

そう、あれは半年ほど前のこと。
生意気な部下であっても、たまには食事くらいは奢ってやろうかと、ちょっと張り込んでステーキハウス・鉄板焼きへと連れだって行った。

目の前でじゅうじゅうと焼き上がるフィレ肉を眺め、赤ワインが注がれたグラスを、ちょっとカッチョ良くエグゼクティブ気分で円を描くように回していた時、榊原が訊いてきた。
「高見沢さん、知ってますか? 最近発見されたのですが・・・・・・、宇宙を司(つかさど)る神から与えられた人間の宿命を」

高見沢は唐突にこんなことを囁かれても訳がわからない。「その大袈裟な宿命って、なんだよ?」と聞き返した。
すると榊原はいかにも重みを持たせて、こんな話しを続けた。

数字は0、1、2、3、4と始まり、その後は千、万、億、兆、京と無限にある。
しかし、順番に途切れず並んでいるはずの数字だが、意外にも、人はそれぞれに欠落数字を持っている。
そして、それは4、5年の周期で変わっていくことが最近判明した。

だが、数字はあくまでも無限大にある。
そのため、欠落数字が・・・・・・例えば8,976,543,768,076のような大きな数字であったりして。
たとえそれが欠落していたとしても日常生活に実害はない。かつ誰もそれに気付かない。

だが最近その傾向が少し変わってきたようだ。すなわち宇宙の神の気まぐれで、その出目が小さな数字に偏ってきてるとか。

つまり、10,000以下の数字が・・・・・・ある日突然欠落することが多いということだ。


作品名:『3』の欠落 作家名:鮎風 遊