『3』の欠落
「さあさあ、狭いところですが、入ってください」
高見沢は二人を招き入れた。
こうして、準備したお供え物で三人だけの大宴会が始まった。
それにしてもお数字地蔵さん、飲むは食うはの乱れ気味。まさに馬鹿の三杯汁(馬鹿の大食い)だ。
それにしても、いつになったら高見沢の『3』を取り戻すための儀式を執り行ってくれるのだろうか?
ついに高見沢も堪忍袋の緒が切れて、「おい、中年の地蔵野郎、ご馳走したのだから『3』を返してくれ!」と怒鳴りつけた。
それを受けてか、地蔵は高飛車に、「そんなの自分でやれ!」と叫び返してきた。そして、後は高いびきとなってしまった。
そんな様子を見ていたお数字観音嬢、「さあ、一郎君、あれを飲ませてやんなさいよ」と、3本目のシャンペンを開けながらおっしゃるのだ。
「あれって?」
高見沢はそう聞き返している時に気付いた。
そう、あれとはテーブルの下に落ちていた『3』の数字が浮き出た葉っぱ。それをフライパンで煎じておいた。
高見沢はその粉にお湯を注ぎ、お数字地蔵さんに気付けにと無理矢理に飲ましてやった。
「私ね、欠落数字奪回の立会人なのよ、これ、わかる? このオッチャンね、もうみんなの欠落した数字をたくさん飲んでしまってね、今ではオッチャンね、1万くらいまでの数字は全部欠落してるのよ。ホント、石だからこそ辛抱できるのだわ。だけど最近・・・・・・もうヤケクソなの」
高見沢はこんなお数字観音さまの説明を受けて、お数字地蔵さんが可哀想になってきた。そして、「お地蔵さん、お務めご苦労さまです。ゆっくりと休んで行ってください」と声を掛けた。
「ああ、高見沢さん、あんたは3番が一番心地よいんだろ。だから『3』の欠落、ワテが飲み込んでやったよ。だから、もう『3』が戻りから、あしたからまた頑張って、いい人生をやって行けよ」と励ましてくれた。
高見沢はもう男の涙が零れそうになってきた。そして一所懸命、御影石風のゴツゴツした背中を擦ってやるのだった。