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海野ごはん
海野ごはん
novelistID. 29750
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1977年のカーラジオ

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1977年はプレスリーが死んだ年だ。ロックンロールが好きだった僕は一応、
尊敬していた。だけど、この頃のプレスリーは太ったおじさんになっていた。
カセットテープにはイーグルスがたくさん入っていた。
76年にヒットした「ホテルカリフォルニア」以来、ずっと聞きっぱなしだった。
ちいは暑いビートルの中でうちわで涼をとっていた。
「その、うちわでリズム取るのやめろよ。盆踊りじゃないんだからさ」
「いいじゃん。涼しくなるし一石二鳥だよ」そう言いながら、
汗でモヤモヤしてる僕の長髪をバサバサ叩くのだった。

ちいは暇を見つけては海までついて来た。大学の授業は6時くらいまであるのだけれど、創作意欲が湧かない時はさっさとサボって、一緒に海まで行った。
陽が沈む浜辺で、僕が海の中で波乗りしているのを一人でずっと見ていた。
西日が顔に射し、色白だったちいはいつのまにか小麦色の健康そうな女の子に
変わった。僕の髪の毛も潮風と海水で色は落ちていた。
二人とも小綺麗とは言えなかったが、汚いとも思わなかった。
僕が全然ちいにかまわず波に乗っている間は、彼女は砂を相手に一人待っていた。
海から上がりちいの座ってた場所に行くと、砂で固めたオブジェがいくつも出来上がっていた。
そして、「これは50点、これは70点」と点数をつけて最後に形を崩した。
せっかく作ったものだから、もったいない気がするが彼女はそうすることで
「今」というのを大事にしていた。
「今、この思いつくことが私の証。創作は今を形にすること」彼女なりの創作感なのだろうか、最後に壊される砂のオブジェは彼女の表現方法の練習のようだった。




 春から夏にかけてはいいが、秋がいよいよ本格的になると海辺は冷たい風が吹き荒れた。ウエットスーツなんか買えない僕は次第に、海から遠ざかっていった。
波乗りが出来なく、する事がないので授業にも出てみたがまったくついていけなかった。だから、ちいの部屋でごろごろするか、時々おもしろそうなバイトを見つけては街まで出かけていった。
寒くなるにつれ僕とちいは体をくっつけあった。どこに行くのも腕を組んで歩いた。騙されてる女と言われ、ちいのことを悪く言う奴がいた。きっと仲がいいものだからひがんでいたに違いない。僕は騙してるつもりはなかったし、彼女も騙されてるとは思ってなかったからだ。だけど、授業にも出てこない、外れ者の僕にくっついていること自体が、皆からは好奇の目だったかもしれない。
ちいはかまうことなく、僕のそばにくっついていた。
僕はちいが素直に好きだった。