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紗の心

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その女性は日傘を広げ、日を避けるように翳した。
(その状態では、振り返ってもわからないじゃないか・・)
日傘の動きが振り返ったことを教えた。
(ほら、顔が見えないじゃないか)
歩み寄れば、見定めることくらい容易いにも関わらず、私は顔が覗くのを待った。
と、その女性の方が、私に気付いたようだ。
歩きかけた足を止め、膝を軽く折るような挨拶をして微笑んだ。
膝を伸ばすか伸ばさないうちに 手に持っていた日傘を離した。
日傘が、ゆったりと方向が定まらないままにゆらゆらと地面に落ちる。
その落ちる間に、その女性は、墓の間の通路をこちらに駆けて来た。
途中、一度草履が引っかかったのか足が止まった。
「あっ」
また駆けて来る。
「走らなくていいですよ」
私は、ただそこに立ったまま、その女性が来るのを待っていた。
足が動かなかった。
その女性は、近づいてきても止まる気配がない。
私の胸に飛び込んだようにしがみついた。
すぐに離れて顔を上げた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
(こんな時、こんにちはでいいのかな)
「今日は暑いですね。冷たいお茶でもいかがですか」
「・・紗希さん」
「はい」
(何処に行っていたんですか?)
私の心が何度もその言葉を繰り返す。だが、声にはならなかった。
してはいけない気がした。少なくとも 今、ここでは。
「私は、仕事の途中なので、直に戻らないといけません。紗希さんはこのあとどちらに?」
「そうなんですか。一旦、下の家に帰ります。そのあとは、わかりません。ただ、
もしお茶を召し上がりに来てくださるのならお待ちしています」
「わかりました」
私は、その人が通った通路を戻り、投げ出した日傘を拾って戻った。
「はい、砂が付いてしまいましたよ」
「ありがとう」
その人は、私の前を通り裏門の方へと姿を消した。
私は、またこのままその人が居なくなるようの気がした。後を追って裏門へと向かった。
ちょうど、階段を下りて行くところだった。
私は、あとを下りていった。
「じゃあ、お仕事頑張ってくださいね」その人は家へと向かった。
私は、仕事の時間も迫っていたので、営業車に乗り、路地を走る。
その人の家の前に差し掛かったとき、玄関のドアが閉まったところだった。

私のその後の営業は、あまりいいものではなかったが、とりあえず、問題なく終える
ことができた。
会社へ報告を入れる。その後の予定に支障はなさそうだ。
仕事中にさぼるなど、部下がしたのなら叱咤ものだ。

作品名:紗の心 作家名:甜茶