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紗の心

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今日も暑さが厳しい日になりそうだ。
久々に向かった営業先は、その人の家の近隣の会社だ。
意識も仕事に向いている。アポイントも取ってある。
済めば、また会社へと戻るだけだ。と、出かけた。
「すみません。時間をずらして欲しいとのことです」とあっけなく受付の女性に
告げられた。
かといって、他に回るには時間が足りないし、その資料の用意もない。
「時間潰しか。暑いし何処か店にでも入り込むか」
ふと、財布の中身がほとんどないことを思い出した。
まずは、コンビニかATMで少し引き出すことにした。
ちょうど、コンビニがあった。
以前にはなかった所だ。
(こんなところにできたのか。少し街も変わったのかな)
私は、コンビニ店内に設置されたATMで現金を引き出した。
ついでによく冷えた飲み物を購入して店を出た。
(喫茶店より安上がりだな)
営業車に戻ると、エアコンのスイッチを入れ、冷えたお茶を飲んだ。
喉にきもちいい潤いが通った。
このままここでエンジンをかけ、エアコンを使うのも気が引ける。
私は、あの駐車スペースで車を停めようと路地へ向かった。
(たぶん、この時間なら日陰もあるだろう)

路地は、相変わらずの様子だ。
普段は忘れてしまっていた出来事も、この路地に入り込んだ途端によみがえってくる。
(こんな暑い日だったかな。紗希さんが打ち水をしていたのは。掛かってはいない水を
気にして、こんな男を家に上げてしまって、そして・・)
「あれ?」
その人の家の様子が何か気になる。
私は、車をバックさせ、玄関を見る。
(いや思い違いだったかな。別に変わった様子もないし、私の妄想が見せた勘違いだ。
きっと)
私は、不審者に間違われそうなほど、目が離せずにいた。
雑誌の間違え探しのように変わったところはないか、隅々まで見返す。
とうとう、その気になる点を見るべく、車を降りた。
門扉を開ければ、不法侵入になりかねない。
門扉にしがみつくようにそこを確かめた。
ぴったり閉まっているはずの雨戸が僅かに空いている。隙間程度ではあるが、気になる。
私は、探偵か何かのように ひとり納得していた。
呼び鈴を押した。
その人が顔を出してくれたのなら、嬉しいが、泥棒でも潜んでいたらどうしようか。
こんなサスペンスをこんなところで想像し、ひとりで盛り上がってる私はとても可笑しく見えるだろう。
呼び鈴の反応はない。
もう一度押してみる。
もしかすると、その人がこちらを伺ってわざと居留守をしているのではないかとまで
私の想像は飛躍してしまった。
いつまでもここに車を停めていては通行にも邪魔になるし、そろそろ不審者の通報が
入ってもまずい。
私は、車に戻り、駐車スペースまで移動し、考えた。

作品名:紗の心 作家名:甜茶