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紗の心

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「佐伯さん、逢いたいの。来て」

再三、その人から電話が入った。
やっと私は、その週末逢うことを約束した。

その人の家へと出かけた。
玄関に迎えに出てきたその人は、いきなり抱きついた。
こんなに変わるものか?
私は、その人を抱きたかった。
しかし、その人は、その行為は拒んだ。
(あんなにも強引に会いたがったのに紗希さんはどうしたんだ?)
「佐伯さん、紗希のこと、好き?大好き?愛してる?」
「あ、紗希さん。今、私は何も言えない」
「どうして?奥様出て行ったから?」
私は、曖昧に首を傾げた。
「お願い、言って。好きが言えないなら、嫌いでもいい。紗希への気持ちを言って……
ください」
「紗希、好きだよ。大好き」
「ありがとう。ねえ佐伯さん、今度、逢うのは、紗希の髪がまた結えるようになって
からにしましょ。それまではここへも来ない。電話もかけない。ね。それだけの時間が
あったら、奥さんのことも私のこともゆっくり考えられるでしょ。紗希は、今言って
もらった言葉だけでいい。今までだって、そういうことあったから、平気」
「紗希・・キスくらいなら許してくれるか?」
その人は、瞼を閉じて顎をあげた。
私は、唇を合わせた。
私の頬に温かいものが伝った。
私ではない。
「じゃあ、ここで。ごめんなさい。お見送りはしないから」
「うん、わかった」
私は、立ち上がり、部屋の戸を開けた。
「佐伯さん、いってらっしゃい」
悲しいひと言だった。

家に戻っても妻はいない。
連絡を入れた。わだかまりはひとりになって考えるほど、大きくなっていくように感じた。
だが、待つしかないと思った。
ひと月ほどたって、妻が戻って来た。
ずっと居る娘を変に思い始めた親に心配をさせない為という理由だ。
また、ふたりの生活は、始まったが、同じ屋根の下に暮らす住人というべき関係だけ 
だった。
ときどき、お互いに気遣う。
そんな日が、徐々に増えてきた。
干渉はしない。妻は、その相手と食事をして帰ることもある。
「今日は、パスタを食べたわ。美味しかった。今度行ってみませんか?」などと話もする。
私は、その人との約束を守り、誰とも会いはしない。
これで以前のような生活が戻るとは思えなかったが、戻ることを願ってはいる。

作品名:紗の心 作家名:甜茶